あと1~2回で『第七回韓国施政改善ニ関スル協議会』は終了するのだが、ちょっと休んで、別の事を挟ませて欲しい。
長くなる事と併せて、容赦を乞う。


1964年3月19日、衆議院本会議において、当時の外相大平正芳から日韓会談に関する報告がなされた。
まずは、その『日韓会談に関する衆議院本会議における大平正芳外相の報告』から引用する。

また,韓国側は,わが国にある韓国文化財の返還を主張しております。
すなわち,国民感情として文化財は大きな意義を持っておること,文化財はその出土の地において保存し研究するのが今日の世界の趨勢であること,朝鮮動乱
(※dreamtale注:朝鮮戦争の事)によって韓国にあった文化財の多くが大きな被害を受けた事情等を強調いたしております。
これに対し,日本側としては,これらの文化財を韓国側に引き渡すべき義務があるとは考えていないが,日韓間の友好関係の増進を考慮し,文化協力の一環として,ある程度韓国側の要望にこたえたいと考えております。



この後、1965年6月22日に締結された『日韓請求権並びに経済協力協定』の第二条一項において、「両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」し、三項で「2の規定に従うことを条件として,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないもの」とされた。


そして、恐らくはこの大平報告にある会談内容を踏んで、同日付の『文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との間の協定についての合意された議事録』において、韓国側代表は、日本国民の私有の韓国に由来する文化財が韓国側に寄贈されることになることを希望する旨を述べ、日本側代表は、日本国民がその所有するこれらの文化財を自発的に韓国側に寄贈することは日韓両国間の文化協力の増進に寄与することにもなるので、政府としてはこれを勧奨するものであると述べた事が残された。

その結果として、『文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との間の協定』が締結されたのである。

ところが、合意議事録では、韓国側が「寄贈」を求め、日本側が「寄贈」を勧奨したにも係わらず、『月刊文化財(1965年9月号)』において宮地茂・文部省社会教育局長が、「文化協力の一環として、わが国の所有する韓国に由来する文化財の一部を韓国に引き渡すのが趣旨である。『引き渡す』という意味は、奪ったものを義務的に返還するのではなく、わが方の気持ちとしては終始一貫して寄贈の謂であるが、韓国側の事情もあるので、結局双方にとり受諾しうる表現が用いられた。」と述べたように、文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との間の協定の第二条には、韓国政府に配慮する形で、「日本国政府は,附属書に掲げる文化財を両国政府間で合意する手続に従つてこの協定の効力発生後六箇月以内に大韓民国政府に対して引き渡すものとする。」と書かれたのである。

この協定の『附属書』に基づいて、陶磁器・考古資料及び石造美術品97点、装飾品など334点、石像3体、図書163部852冊、逓信関係品目35点が寄贈された。

つまり1965年に、引き渡すべき義務の無い物を、日韓間の友好関係の増進を考慮して、寄贈した上で、さらに韓国政府の事情を考慮し「引き渡す」と表現したのである。
ちなみに、朝鮮半島に持ち込まれた日本の文化財は、全く引き渡されていない。

果たして、これらの行為が日韓間の友好関係の増進に役立ったであろうか?
残念ながら、全く役に立っていない。
それどころか、少し前の『日韓請求権並びに経済協力協定』のように、全く韓国人は知らない場合が多い。
勿論、韓国政府の「体面」を考慮したのであるから、当然の話ではある。


さて、外務省は、北関大捷碑を「引き渡す」仲介を決めた。
しかし北関大捷碑は、4月1日のエントリー及び5月7日のエントリーに書いたとおり、略奪したという史料は無い。


外務省に聞きたい事がある。

証拠の無いものを「返還」し、韓国内で喧伝されている「略奪」等の不法手段による入手を認め、従軍慰安婦問題における河野談話の二の舞を踏むつもりか?

靖国神社に行政が介入したという事、その表面だけを韓国が取り上げ、A級戦犯の合祀問題においても同様の要求をした時、あの韓国の反発を招かず説得できるだけの自信はあるのか?

私は前の二回のエントリーで、「日本、あるいは靖国神社の好意」によって返却される事を、はっきりとさせた上での「寄贈」を主張した。
その後、考えを改めた。
北関大捷碑は、引き渡すべきではない。
以下に、質問として二点を述べ、その理由を明らかにする。

「善意」によって「寄贈」された後、他の半島系文化財の「善意」の「寄贈」の仲介を依頼された時、どのようにして断るのか?

「寄贈」を所持者が断った時に、「良心」が無い、「反省」していないと韓国から所持者が批難された時、外務省はその批難から所持者を守れるのか?

上記の二点が確実に実行されない時、総ての請求権が完全かつ最終的に解決された筈の、「日韓請求権並びに経済協力協定」は、事実上無効化されるのである。

そういった総ての事に関して、外務省は対処を考えているのか?
普通の国が相手なら、ここまで考えておく必要はあまり無い。
ただ、相手はあの韓国なのである。
日韓基本条約ですら、再交渉するべきだなどと奇想天外な事を、国会で大真面目に議論する韓国が、これらの事を行わないという自信があるのだろうか?


我々が歴史に学んだ事は、韓国政府の「体面」を考えてやる事ではないのである。