前回は、21日付け史料の内大垣丈夫の退韓に関する史料までを見ました。
今日は、内田には「国家的の頭は少しも無く、只感情に制せられて書き居る」と言われ、大垣にも「内田一人の功名を為さんとして出し抜け的行動に出でたりとの反感に外ならざる」などと言われた、大韓日報社長戸叶薫雄に関する件から。
1909(明治42年)12月21日付『警秘第4458号の1』より。


大韓日報社長戸叶薫雄は頃日、訪客に対し左の如く語りたりと云ふ。

近来、某策士等の言動に徴すれば、所謂日韓合邦問題たるものを突飛的に呼号し、而かも其形勢の不可なるに狼狽し、買収手段を弄じて社会の一部を籠絡糊塗せんとして益々其陋態を演ずるのみならず、其論旨亦粗放杜撰一時姑息的にして累を百年に貽すを免がれず、到底世の具眼者をして首肯せしむるに足らざるべし。
故に我軍は、最早今日の場合に於ては、一刀両断に併合的政策を実行し根本的解決を為すを至当とし、他に籌略なきを信ぜるのみならず、苟も対韓政策の実行を期せんと欲すれば、先づ統監を中心として立策せざるべからずと同時に、大に在留民の輿論を喚起せざるべからず。
故に吾々は、此方針に依り其目的を断行せんことを期しつつあるものなり云々。

右及報告候也



勿論、某策士は内田の事を指すのだろう。
合邦請願は突飛であり論旨は粗放杜撰一時姑息的だと、ケチョンケチョンに貶してますね。
で、日本は一刀両断に併合的政策を実行すべきであり、その為には統監府を中心に立案させ、同時に在留邦人の世論を喚起しなければならず、我々はその目的を断行しようと期しているのだ、と。
んー。
今までの統監政治批判はどこ行った?(笑)

で、新聞記者団にも動きがあるわけです。
1909(明治42年)12月21日付『警秘第4458号の1』より。


在京城新聞記者団は、昨20日夜日本電報通信社に集合せり。
会する者は

国民新聞通信 熊谷 直亮
大阪朝日新聞通信 山本 光三
大阪毎日新聞通信 楢崎 観一
時事新報通信 橫尾 槙一郎
報知新聞通信 武田 卓爾
京城通信社 宇都宮 高三郎
日本電報通信社 牧山 耕三
大韓日報 戸叶 薫雄
京城新報 峯岸 繁太郎

等にして、席上今日の合邦問題に関しては、種々買収等の醜聞もあり、各自の位地を明かにする為め一の宣言書を発表し、何れの党派に偏せず中正公明なる所見を声明すべしとの議纏り、尚今21日夕、一同は商業会議所に集合協定することとし、午後9時散会せり。
宣言書の草案は、大阪毎日通信楢崎観一之を担当し、其骨子は、一進会の提議に依る合邦案は反対なるも内閣及大韓協会の行動にも同情する能はず。
只だ其れ公正なる日韓合邦に就ては、時機の宜しきを見て実行するは希望する処なりと言ふに在りと。
尚ほ、宣言書発表後は演説会をも開き、所見を披瀝せんと言合ひ居りたるものありと云ふ。
右及報告候也。



つうか、お前等普通に邪魔なんですが。
取りあえず、一進会の合邦案には反対だが、内閣や大韓協会の行動にも反対として、新聞記者団として声明書を発表する、と。
既にマスコミの責から外れてるわけですが、まぁ元々が買収等の醜聞から来ているわけで。
現在においてもマスコミは成熟してないんで、仕方無いといえば仕方ないですけどね。

次は、日本国内の話について。
つっても民間人なんですが。
1909(明治42年)12月21日付『憲機第2528号』より。


東京市浅草区栄久町一七 窪川方
内海 安吉

右之者より一進会長李容九に宛て、長文の書状到来せり。
其内容、大略左の如し。

今回一進会が提議せし合邦問題に関しては、満腔の熱情を以て我々日本人は賛成の意を表し、其遂行に関して極力援助すべし云々。

右は頗る能筆にて、文書も又流暢なり。
美濃半罫紙8枚に認め、其姓名の下に認印さり。
然して、来月10日前後には渡韓して、面謁の上更に目的遂行に付ての内議を為さんと附記しあり。
然るに、同会長始め一進会員中にも、前記のものは未だ面識なきのみならず、其氏名も聞きしことなしと云へりと。
以上。



うーん。
李容九や一進会員のみならず、多分この報告をした憲兵の頭の上にも、「誰?」と浮かんで見えるような気がします。(笑)
おまけに1月10日前後の史料見ても、出てこねーし。(笑)

さてと、続いては大韓協会の様子について。
1909(明治42年)12月21日付『憲機第2530号』。


大韓協会本部にて、去る17日午後8時頃より、会長以下重なる者30余名集合し総会を開き、一進会の声明書に極力反対をなし、且つ会長李容九及宋秉畯の両名を厳罰に処せられたしとの建議書を政府に提出せんことを協議し、略ぼ決議せんとせしに、一部の反対者あり遂に否決に帰し、同12時頃散会したりとの事なるが、其内容左の如し。

一.同夜集合せし者は、金嘉鎭・尹孝定・呉世昌・権東鎮・洪弼周・李宇榮・呂炳鉉・李鐘一・張孝根・金相範・姜■凞以下30余名にして、内評議員張孝根・金相範の両名は李首相より買収せられ、為めに同人等の主唱にて総会を開きたるものにて、議題略ぼ決定せし後、反対意見を有せし一、二の者、顧問大垣丈夫に通報せしに、大垣は直に参会し大要左の如き反対意見を述べ、遂に否決に帰したりと。

本協会の如き重大なる問題を議決する場合は、予め顧問の意見を問はざるべからざるに、突如として如斯集会を催し軽率に決議なすは、顧問の不信任の意思を表示せしものなれば、余は断然本会を辞し帰国すべし。
抑も、余は4年間無報酬にて本会に盡力せしは、日本の国論と韓国の国論とを調和し、韓国の存立を計り、日本の対韓政策に円滑に実行せしめんとする赤誠より出づるのみ。
本会は、韓国唯一の大政党にして韓国を担任するの任務を帯ぶるものなれば、最も慎重の態度と公正なる行動を執らざるに、只今の決議は排日的意味を含み、現内閣の妄動狂態に阿附し、日本の一部に行はるる合邦論に絶対的反対の意思を表示するは本会将来の為め不利益なり云々と、日韓関係及両国の現状を説き、将来の利害を述べたりと。
因に、李完用が前記張孝根及金相範を買収したるは、頃日大韓協会の態度曖昧にして、何時一進会に歎を通ぜしも計られずとて、農相趙重應をして運動せしめたるものなりと云ふ。
以上。



李完用に買収された張孝根・金相範の主唱で総会が開かれ、一進会反対決議がほとんど決定しようとした時に、反対者の通報により大垣丈夫登場、と。
反対意見を有せし一、二の者は、やはり尹孝定あたりかなぁ・・・。
つうか一進会反対派ももう少し我慢しとけば、統監府によって退韓させられてたのに。(笑)
運命の綾ですなぁ。

それは兎も角、大垣の説得で否決されちゃうわけです。
内田良平なんかは、「大垣丈夫の如く日本人として口にするを耻づるが如き態度に出づるも、畢竟会員を一致せしむる心算なきに因るものならんかと察せらる。」と恩も顧みず貶してましたが、結構そうでも無いようで。

で、次からは各地方に関する21日の様子に入っていきます。
まずは仁川方面に関して、仁川理事官信夫淳平から石塚総務長官への1909(明治42年)12月21日付『機密第57号』から。


合邦問題に関する各派の態度に付、仁川警察署長より別紙寫の通報告有之候間、茲に及報告候也。

○ 別紙 仁警秘発第877号

合邦問題に対する各派の態度

一.排日派の中心と目せられある西北学会員は、其首領鄭雲復近来の行動に疑を抱き、会を売り、友を欺くものなりとし、稍もすれば渠の身上に迫害を加へんとするの傾向あるに依り、鄭は目下京城不知火旅館に潜伏し、合邦問題の余談全く冷却するまで、避難の目的を以て日本に渡航せんとするの意あるものの如く、近来渠の心事なりとして人に語りたりと云ふを聞くに、自分は、東京在留中李容九と会見して其意見を聴き、意気投合する処あり、相提携して韓国の為に竭さんことを誓ひたり。
而して今回の合邦問題に付ては、其時機等に於て尚早の感なきありざるも、根本的の問題に付重大なる意見の衝突なき限りは、枝葉の問題に関して誼兎角の反対を表すべきにあらず。
尤も、合邦実現の暁に於ては、韓人にも日本の議会に於ける参政権を与へられざるべからず云々と。
渠は、一進会の合邦宣言発表前、此問題に関して既に李容九と気脈を通じあるものの如しと。
而して渠は、過去数年来の苦心を以て僅に築き上げたる西北学会の基礎を攪乱して自己の立脚地を失ひ、剰さへ売国奴として其党友間に敵視せらるるの窮境に陥りたるに付ては、李容九等との間に何等か深く結托するところありたるは疑なきものの如くなるも、其内情等に付ては目下内偵中。

一.大韓協会に関係ある一韓人新聞記者曰く、協会は合邦其のものには絶対に反対するものにあらず。
何となれば、韓国は将来独立自存の見込なきことは、識者を俟て後に知るべきにあらず。
而して統監政治にして良好の成績を奏し、韓人一般の信頼を博するに至りたる暁に於ては、無論、日たり韓たるの区別を設くるの必要なく、事実上合邦の状態を見るに至るべく、又仮りに統監政治にして不成績に終り、暴徒の徘徊熄むことなく排日的思想遍ねく濔漫するの暁に於ては、日本は勢武力を以て韓国に臨み、征服的に日韓の区別を撤廃するに至るべし。
要するに近き将来に於て、韓国々運の帰着するところは合邦に終るの外なきも、今日の場合に於て之れを公表するは時機の宜しきを失ひ、徒に民心を攪乱するに止まるものなるを以て、吾党は此見地よりして一進会の宣明に反対するものなりと。
而して、三派合同の動機たりし現内閣を破壊することは、同協会の宿望として依然株守しつつあるものの如し。

右聞知の儘及内報候也。



鄭雲復、ほとぼりが冷めるまではやっぱり日本に逃げるつもりなのか・・・。
で、結局鄭雲復も尚早論に近いんですな。
しかし、根本的な問題について大きく齟齬しない限り、枝葉の問題は反対を表すべきではない、と。

次に、大韓協会に関係する韓国人新聞記者は、大韓協会も韓国は将来独立自存の見込がなく、統監政治が上手くいけば勿論、上手くいかない場合も日本は武力で韓国に臨むから、何れにしても合邦は避けられない。
でも、「今は時機じゃない」と。
で、現内閣の破壊はまだ宿願として固守しているようだ、と。
尹孝定等の意見に近いですな。


ってことで、今日はこれまで。


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