この辺から、極端に史料数が少なくなってくるんですよねぇ。
つうことでサクサク先に進みましょう。

今回は、25日付け最後の史料、各道の状況報告から。
1909(明治42年)12月25日付『高秘発第475号』。


京畿道
一.水原郡一進会支会長安台栄は一進会を脱したりと偽り、元老金宗漢を其自宅に訪問。
合邦問題に関する意見を叩きたるに、金は一進会の軽挙を歎じ、元来日本が日清戦争の当時より韓国を併呑せんとの意思明なりしに、事新しく一進会が合邦を提唱して民衆の怨嗟を買ふが如きは、真に国家を思ふ赤誠にあらず云々。
又、大韓協会は多士済々にして、国家を左右するの有力の人物多く、之に反し一進会には人物なしと意気頗る昻然たるものあり。

一.仁川に於て最も勢力を有する徐相彬・鄭永化及金鳳儀等は、異口同音に一進会の合邦問題に対しては真面目に耳を傾くるの価値なく、同会は他に求むる処ありて斯くの如く突飛なる行動を演じたるに相違なし。
然るに、一進会の提唱が仮令事実として行はるるも、自分等は時勢の推移として甘受するの外なし。
唯各自商業上の関係及財産上の権利を蹂躪せらるるが如きことなくんば足れり。
故に軽々党争の渦中に投ずるの愚を為さずと語れり。

一.金浦郡地方委員奇東式は、日韓の合邦は最も可なり。
韓国は将来独立自存の見込なく、国家の面目を新にし各般の改善を図るには、此際寧ろ合邦するに如かずと云へり。

一.陰竹郡守は今回一進会の合邦問題を声明せるは、自己の利益を図らんとの野心に出たるものなるべし。
堂々たる日本政府は、一進会如き無識無謀の輩に誤らるる事なかるべしと冷視せり。

一.京城天道教中央総部より、別紙訳文の如き印刷物9枚を水原郡北部面天道教大区長鄭道永へ送付せり。
所轄警察署にて発見せし際は既に配布し、一枚を存せるのみなりし。



金宗漢は、12月1日のエントリーで奥さんが病気のため、幻の国民大演説会に参加出来なかった人物。
現代韓国人や良心的日本人同様、「日清戦争の当時より韓国を併呑せんとの意思明なり」と。
だから今更一進会が合邦を提唱して民衆の怨嗟を買うのは、真に国家を思う赤誠ではないって、前段と後段が論理的に繋がってませんが・・・。(笑)

で、12月20日のエントリー初め何度か出てきた徐相彬・鄭永化・金鳳儀等は意見に変更無く、基本一進会に反対だけど、もしそれが実現しても時勢の推移として甘受するしかない、と。

金浦郡地方委員奇東式は日韓合邦大賛成で、韓国が将来独立自存の見込みがない、と。

陰竹郡の郡守は、一進会は自分らの利益を図る野心から出たのであって、日本政府は一進会のような無識無謀の輩に騙される事はないだろうと褒め殺し気味。(笑)

京城天道教の出した印刷物は、侍天教と一進会を分離してその上で一進会批難をしており、結構面白いのだが、ちょっと長いので今回は省略。
希望があって且つ気が向いたらそのうちに・・・。


忠清南道
一.大韓協会洪州支部は合邦問題に関し、18日同所邑内市日に於て一進会声討演説会を為す為め集会せんとせしも、所轄警察署は之を禁止せり。

一.洪州に於ける一般官吏の意向は、其少数者に在りては一進会の声明に憤慨せるの色ありと雖も、多数は近き将来に於ては勿論、現今の状況にては到底独立国として列国に対すること不可能なり。
殊に現時日韓関係に於ては、保護国たる日本より進んで合併せんとせば国情上止を得ざるも、我より進んで合併を求むべきにあらずと、形勢を望観せるの態度なり。
又、大韓協会員に在りては一進会の無謀を悖り、統監府より建言書を却下せられたるは当然なり。
大韓協会は本部の指示に基き、不正当なる一進会を声討撲滅せしむるの必要あり云々との意向を洩せり。
両班儒生等は、其意向同協会と同一なり。



忠清南道は、12月23日のエントリーで一進会が道大会を開こうとして少人数しか集まらなかった所なわけですが、そこでさらに溺れる犬を叩いてもねぇ。(笑)

一方で官吏はやはり韓国は到底独立国として列国に対するのは不可能だと考えており、保護国である日本から進んで合併しようとすれば国情の上から仕方ないだろうが、自分らから進んで合併を求めるべきではない、と。
大韓協会は、一進会の建言書が却下されたのは当然だと。
最も、却下したのは韓国政府の分であって、統監府の分では無いんですが。
で、本部の指示に基づきってことですが、本部からそんな指示は来ないんですよね。(笑)


慶尚南道
一.一進会長より晋州一進会支部に対し、合邦宣言に対しては徹頭徹尾貫徹を決心せりと同時に四面の攻撃は期する所なれば、此際各地方会員は世上の流説に迷はず、攻撃に脅かさるることなく、慎重の態度を採るべしと諭告する所あり。
依て昨24日、晋州外十三支会長を秘密に晋州に集合し、該諭告を伝達することとせり。



12月23日のエントリーでも忠清南道で類似の話が出ており、合併趣意宣言書は各一進会支部に配布されたのであろう。
で、各支会長を集めて伝達予定、と。


江原道
一.本月21日報告せし鐵原学校教師が合邦反対決議書に調印を求めつつありし件は、所轄警察署に於て説諭の結果、以後決して政治問題に関係せずと宣言し、調印を中止せり。



12月19日のエントリーの『高秘発第452号』の続報ですな。
結果、以後は政治問題に関わらないと宣言して、調印中止。


咸鏡南道
一.咸興耶蘇中学校教師金昌済は、韓国は無智無能の輩に依り益々国威を失墜し今や危急至るの秋に在り、合邦問題の如き最早論ずるの要なしと云ひ、又咸興日新会長にして有力なる耶蘇教徒曺希林は、合邦問題は元来問題として研究するの要なし。
韓国民たる者、誰が之を歓迎する者あるべき。
若し一人たりとも同意せるものあれば、真に無智の輩なりと罵倒せり。
又、大韓協会員中、今の時に当り合邦問題を遂行せんとせば、結局多数の人民を犧牲に供せざるべからず、本問題は最も慎重に考慮すべきものなりと云へり。



「無智無能の輩」が示すのは誰だろうねぇ・・・。
恐らく、金昌済の意図している人物と、私の脳裏に浮かんでいる名前は別な者だと思うが。(笑)
で、咸鏡南道の大韓協会は、この意見を見るに多少慎重派なのかな?
いずれにしても、一進会も大韓協会も、地方によって見解や対応がまちまちですな。


平安北道
一.本月20日報告せし寧辺公立普通学校及私立維新学校に於て、校長職員等が合邦説に反対して一進会を排斥すべき旨、生徒に対して演説し、不穏の状況ありし件は、同校の行動昨今民間に伝はり、之が為め従来平穏にして同問題には何等不穏の状態なかりし同邑内は、忽ち同問題を評論するもの多きを加へ、一進会排斥に対しては、一進会員と商取引をなすべからずなど不穏の言動をなすものあるに至れり。
此に於て所轄警察署は、各学校長及一進会長等を召喚し厳重説諭したるに、何れも反省し、大に謹慎を表し、再び他方より動機を与ふることなきに於ては、紛擾を起すの慮なかるべし。
曩報定州とせしは電信符合の相違にして、寧辺の誤植なり。

一.北鎮の於ては、一進会員約40名集会し宣言の適否を論議し、反対者数脱会し、一進会員に危害を加へんとの風聞あるに至れり。
目下注意警戒中。

右及報告候也。



前段部に関しては、12月22日のエントリー中『憲機第2564号』の続報の形になるだろう。
一時は話が大きくなり、一進会員村八分状態まで行きそうになったが、何故か一進会長まで所轄の警察署に呼びだし。
厳重説諭したところ、皆反省。(笑)
ま、笑い事じゃなく、紛擾を回避できたのは重畳である。

で、北鎮では一進会脱会者が一進会員に危害を加えようとしている噂がある、と。
半島では、どっか組織やなんかから抜けると、却って元居た所を激しく攻撃しようとするんですよねぇ。
結構面白い傾向ではあります。

で、次は26日付けの史料なのだが、史料一件しかない。
内部警務局長松井茂から曾禰統監への地方民心の総合報告を、1909(明治42年)12月26日付『高秘第479号』より。


合邦問題に関する各道現下の状況を綜合するに

一般人民は、今尚合邦の何物たるを詳知し居らざる者多く、偶々新聞紙等に依りて之を知れる者は、其論説等の口吻を借りて相喧伝し、合邦は韓国の滅亡なりと憤慨し居れり。
而も之を一進会の罪なりとし、同会員を憎怨するの度を増したるものの如し。

各地大韓協会員は、一進会の声明を以て無謀なりとし、一進会の暴挙は一面日本に媚び、一面同会の頽勢を挽回せむとし、却て他人を賊し又己をも欺くものにして、韓国五百有余年の社稷を亡滅せんとする乱臣賊子なりと唱へ、其軽挙を憤慨せること今尚既往と同一状態なり。
殊に平素一進会に反対せるもの及耶蘇教徒の如き、何等かの時機に投じて排日の気勢を強からしめんとするものは、此機を利用し一進会を攻撃し、併て排日の思想を扶植せんとするの観あり。

地方有志者中には方今韓国の実状に鑑み、徒に無名の独立を保ち、百年清河を俟たんよりは、寧ろ合併して日人同等の利権を獲得し、日韓一家団楽的の国家を形成するを得策なりと云ふ者あり。
又官吏側にありては、当初以来の状態及新聞紙等により、到底成効せざるものなりとの意志を懐き居る者多し。

一進会員は、多くは慎重の態度を持し、只管本件の成行を観望し居るものの如し。

之を要するに、一進会に対する一般の感情は一層憎悪を以てし、加ふるに此機に於て幾分の排日思想を表現したるが如し。
然りと雖ども、各地共何等不穏の状況なく、一般に冷淡視せるの状況なり。

右及報告候也。



まぁ、総合報告であるので目新しいものは特に無いね。
しかし、これだけ大問題になってるのに、やはり一般民はまだ知らない方が多いんだねぇ・・・。


今日はこれまで。


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