前回の連載後、日清戦争開始からの経緯をやるか、あまり経緯を知る人のない大韓帝国の成立・独立協会弾圧事件・毒茶事件をやろうか迷った挙げ句、取りあえず全然関係無い話を。(笑)
ってことで、創氏改名。
今回の連載は、根詰めて何日にも渡って書くのではなく、史料等を思いついたときに挙げていく、不定期連載の形でやってみたいと思います。
勿論、今回取り上げただけで、以降忘れてしまう可能性はあるわけですが。(笑)

ってことで、不定期連載の第一回。
今回は何をやるかというと、創氏改名の最も基本というか根本となる話。
つまり、朝鮮民事令について。
もう一つ、朝鮮戸籍令があるわけですが、こちらも追々。

今回の場合、全文を取り上げるのはあまり意味が無いため中野文庫さんででも確認して貰って、直接創氏改名と関連することになる第11条を中心として見ていきます。
まずは、制定時の文をアジア歴史資料センター『公文類聚・第三十六編・明治四十五年~大正元年・第十六巻・衛生・人類・獣畜、願訴、司法・裁判所~刑事/朝鮮民事令ヲ定ム(レファレンスコード:A01200088800)』から。

朝鮮民事令

第1条 民事に関する事項は、本令其の他の法令に特別の規定ある場合を除くの外、左の法律に依る。

 (略)


第11条 第1条の法律中、能力、親族及相続に関する規定は、朝鮮人に之を適用せず。
2 朝鮮人に関する前項の事項に付ては、慣習に依る。
朝鮮人に関する能力・親族・相続についての民事事項は慣習による、と。
ついでに、法律の制定や改正ってのは、必ず提出理由がありますので、そっちも見ておきましょう。

理由書

目下朝鮮の民事に関する法規は、内地人又は外国人に対するものと、朝鮮人に対するものとの2種あり。
内地人又は外国人に対する実体法は概ね民法・商法等に依り、手続法は民事訴訟法に些少の例外規定を設けたる外、総て内地の裁判所に於ける例に依らしめたる統監府裁判所司法事務取扱令に依り、又朝鮮人に対する実体法は殆ど全く不文の慣習に依り、手続法は旧韓国政府時代の制定に係る氏刑訴訟規則、非訟事件手続規則の他、2、3の附属法規に依ることと為れり。
然るに、朝鮮併合後の今日に於て、民事法規に尚2種の系統を存置するは公私共に日常不便を感ずる所なりとす。
故に、朝鮮総督府裁判所令の改正を機とし、従来の民事法規を統一整理し、内外人、朝鮮人の区別なく、共通の法規を以て朝鮮に於ける民事を処理するは、最も適当の措置なりとす。
是れ、本令の制定を必要とする所以なり。
この法律が施行された1912年(明治45年・大正元年)までは、日本人及び外国人と朝鮮人ではそれぞれ個別の根拠に基づいていたわけですな。
勿論、2系統の民事法規では不便だということで、共通の法規を定め、朝鮮における民事を処理するため、と。
まぁ、御承知のとおり法案の提出理由ってのは良い事しか言いませんから、一面的な理由でしか無い可能性は当然あります。
その辺は、要注意点であると共に、妄想の源泉ともなっているわけですが。

さて、朝鮮民事令第11条に関する一回目の改正は、この約10年後の1921年(大正10年)11月に行われます。
『公文類聚・第四十五編・大正十年・第三十四巻・司法二・民事(民法・財産・民事訴訟・国籍・戸籍)・刑事一/朝鮮民事令中改正制令案(レファレンスコード:A01200208900)』より。

朝鮮民事令中左の通改正す。

第11条 朝鮮人の親族及相続に関しては、第1条の法律に依らず慣習に依る。
 但し、親権、後見、保佐人及無能力者の為に設くべき親族会に関する規定は此の限に在らず。

(略)

附則

本令は、大正10年12月1日より之を施行す。
本令施行前生じたる事項に付ては、民法施行法及商法施行法中、無能力者、親権、後見及保佐人に関する規定を準用し、其の規定に依り旧法を適用すべき場合に於ては朝鮮に於ける従来の例に依る。
本令施行前より独立して商業を営む未成年者は、本令施行の日より其の商業に関し成年者と同一の能力を有す。
制定時に慣習に依るとされていたものの内、「能力」が抜け、「但し」以下が付け加えられた形となります。
さて、こっちも提出理由を見てみないと何の為の改正か、根っこの部分が分かりませんので見てみましょう。

理由

従来朝鮮人の能力に関する事項は、朝鮮民事令第11条に従ひ慣習に依るべきものと為したれども、年齢に因る無能力者を認めずして、幼年者の能力も一に事実に基きて其の有無を判■すべきものと為す如き、又浪費者の能力に制限を設けず、其の濫費に対し全く救済の途を欠く如き、其の他無能力者の保護機関に関する制度の不備なる如き、到底時世の要求に順応するを得ざるものあるを以て、朝鮮人の財産保護其の他に関し、今日に於て適当の法制を定むるは、寔に緊要なりと認むるに由る。
朝鮮の慣習では、当時で言うところの無能力者、現在の日本においては制限行為能力者と呼ばれる、未成年者、禁治産者、準禁治産者の取扱に関してカバーされていなかった、と。
わざわざ制定時に「能力」を入れたのは、何らかの考えがあっての事かと思いますが、背景に何があってそれを改正する事となったのか、興味深いところではあります。

今回は法律並べただけなので、かなりつまらない内容になってますが、取りあえず基礎的事項第一弾として挙げてみました。


今日はここまで。