不定期連載と良いながら、3回連続でのエントリーになっておりますが・・・。(笑)
ってことで、3回目。
今日は、ようやく創氏改名に直接関連する、朝鮮民事令第11条に関する1939年(昭和14年)の3回目の改正についてやってみたいと思います。
それではいつもの通りアジア歴史資料センターから、『公文類聚・第六十三編・昭和十四年・第百巻・司法一・裁判所・公証人・民事(民法・商法)/朝鮮民事令中ヲ改正ス・(壻養子制度創設及之ト関係スル氏ニ関スル規定)(レファレンスコード:A02030160700)』。
まずは、改正条文を見てみましょう。

朝鮮民事令中左の通改正す

第11條第1項中「但し」の下に「氏、」を、「認知、」の下に「裁判上の離縁、婿養子縁組の場合に於て婚姻又は縁組みが無効なるとき又は取消されたるときに於ける縁組又は婚姻の取消、」を加へ、同條に左の1項を加ふ。

氏は戸主(法定代理人あるときは法定代理人)之を定む。

第11條の2を第11條の3とし、以下第11條の8迄順次1條宛繰下ぐ。

第11條の2 朝鮮人の養子縁組に在りて、養子は養親と姓を同じくすることを要せず。
但し、死後養子の場合に於ては此の限に在らず。

婿養子縁組は、養子縁組の届出と同時に婚姻の提出を為すに因りて其の効力を生ず。

婿養子は妻の家に入る。

婿養子離縁又は縁組の取消に因り、其の家を去るも家女の直系卑属は其の家を去ることなく、胎兒生れたるときは其の家に入る。

第11條の9を第11條の10とし、同條中「第11條の3及第11條の4」を、「第11條の4及第11條の5」に改む。

附則
本令施行の期日は、朝鮮総督之を定む。
朝鮮人戸主(法定代理人あるときは法定代理人)は、本令施行後6月以内に新に氏を定め、之を府尹又は邑面長に届出づることを要す。
前項の規定に依る届出を為さざるときは、本令施行の際に於ける戸主の姓を以て氏とす。
但し、一家を創立したるに非ざる女戸主なるとき、又は戸主相続人分明ならざるときは、前男戸主の姓を以て氏とす。
第11条第1項の「氏は戸主(法定代理人あるときは法定代理人)之を定む。」及び附則の「朝鮮人戸主(法定代理人あるときは法定代理人)は、本令施行後6月以内に新に氏を定め、之を府尹又は邑面長に届出づることを要す。」、「前項の規定に依る届出を為さざるときは、本令施行の際に於ける戸主の姓を以て氏とす。」が主に話題になる重要部分ということになりますね。
とは言っても、このままでは条文自体が非常に分かりずらいと思いますので、改正後の条文を新旧対照表から拾ってみましょう。

第11条 朝鮮人の親族及相続に関しては、別段の規定あるものを除くの外、第1条の法律に依らず慣習に依る。
但し氏、婚姻年齢、裁判上の離婚、認知、裁判上の離縁、婿養子縁組の場合に於て婚姻又は縁組が無効なるとき又は取消されたるときに於ける縁組又は婚姻の取消、親権、後見、保佐人、親族会、相続の承認及財産の分離に関する規定は此の限に在らず。
2 分家、絶家再興、婚姻、協議上の離婚、縁組及協議上の離縁は、之を府尹又は面長に届出づるに因りて其の効力を生ず。
但し、遺言に依る縁組に付いては、其の届出は養親の死亡の時に遡りて其の効力を生ず。

第11条の2 養子は養親と姓を同じくすることを要せず。
但し、死後養子の場合に於ては此の限に在らず。

第11条の3 婿養子縁組は、養子縁組の届出と同時に婚姻の提出を為すに因りて其の効力を生ず。
2 婿養子は妻の家に入る。

第11条の4 婿養子離縁又は縁組の取消に因り、其の家を去るも家女の直系卑属は其の家を去ることなし。
2 前項の規定の適用に付ては、胎兒は既に生れたるものと看做す。

第11条の5 朝鮮人の戸籍に関しては、後7条の規定に依る。

第11条の6 戸籍事務の管掌に付ては戸籍法第1条、第2条、第4条及第7条の規定に、戸籍の訂正に付ては戸籍法第164条及第165条の規定に、戸籍事件の抗告に付ては戸籍法第169条乃至第175条の規定に、過料の裁判に付ては戸籍法第179条の規定に依る。
但し、戸籍法中市町村とあるは府尹又は面長に、市役所又は町村役場とあるは府庁又は面事務所に、区裁判所とあるは地方法院に該当す。

第11条の7 戸籍事務は、府庁又は面事務所の所在地を管轄する地方法院の院長之を監督す。
2 戸籍事務の監督に付ては、司法行政の監督に関する規定を準用す。

第11条の8 正当の理由なくして期間内に為すべき届出又は申請を為さざる者は、10円以下の過料に処す。

第11条の9 朝鮮総督の定むる所に依り、府尹又は面長が戸籍事務に関し期間を定めて届出又は申請の催告を為したる場合に於て、正当の理由なくして其の期間内に届出又は申請を為さざる者は、20円以下の過料に処す。

第11条の10 府尹又は面長は、左の場合に於ては30円以下の過料に処す。
 1 正当の理由なくして届出又は申請を受理せざるとき。
 2 戸籍の記載を為すことを怠りたるとき。
 3 正当の理由なくして戸籍簿、除籍簿又は朝鮮総督の定める所に依り、閲覧を許したる書類の閲覧を拒みたるとき。
 4 正当の理由なくして、戸籍若は除かれたる戸籍の謄本、抄本又は朝鮮総督の定むる所に依り交付すべき証明書の交付を為さざるとき。
 5 其の他戸籍事件に付職務を怠りたるとき。

第11条の11 戸籍の記載を要せざる事項に付、虚偽の届出を為したる者は、1年以下の懲役又は100円以下の罰金に処す。

第11条の12 第11条の6及び第11条の7に規定するものの外、戸籍簿、戸籍の記載手続、届出、其の他戸籍に関し必要なる事項に付ては朝鮮総督の定むる所に依る。
ありゃ?
新旧対照表から「氏は戸主(法定代理人あるときは法定代理人)之を定む。」が抜けてら。(笑)

さて、ここまで条文の変遷を3回にわたって見てきたわけですが、徐々に「慣習」からその「慣習」の不具合の修正を含めて、法的に整備された状態になってきているだけのような感じもしますわなぁ。

良く言われるのが、改正第11条の2の「養子は養親と姓を同じくすることを要せず。」。
俗に「異姓養わず」と言われる朝鮮の慣習を、ここで修正した形となります。
まぁ、これらの改正理由についても、当然掲載されているわけですが、今日の所は長くなったので条文のみの掲載にしたいと思います。
改正理由については次回。

改正理由に移る前に、この婿養子の話と氏の話について、先に中枢院の決議があったようで。
そちらの決議事項を見てみましょう。

中枢院決議(大正13年9月18日・19日 於 中枢院会議)

決議事項
1.男子なくして女子のみある者は、其の女に他姓の男子を婿養子と為すことを得。
此の場合には、養家の姓を称すること。

2.家に称号を付すること。
1924年(大正13年)ということは、2回目の朝鮮民事令第11条の改正から2年後の話ですな。
面白いのは、婿養子をとった場合に、養家の姓を称するとされている処ですね。
これが、今回の3回目の改正では、「姓」は変わらない代わりに「氏」で家族を示す形になるわけで。
まぁ、その辺の話も、理由説明の際に出てきますので、そちらの方で見ていきましょう。


ってことで、今日はここまで。



朝鮮民事令と第11条の第1回改正
朝鮮民事令第11条の第2回改正