今日は前回の予告通り、『朝鮮民事令』の3回目の改正の説明について。
んじゃ、前置き抜きで早速。
ただ、長いのでちゃちゃ入れながらやってく事にしますので、よろしく。

朝鮮が、其の固有なる歴史的事実及地理的環境を有し、為に内地に比し特異の文化を育成し風俗習慣を異にするは、敢て訝むに足らず。
而して、風俗習慣は素是各民族が其の生活理想を達成せんが為に、適正妥当と認め採用し来れる牢乎たる伝統的形式なるを以て、法制の力を以て一朝にして之に変革を加ふるときは民心を動揺せしめ、反発を招来するの虞あり。
是日韓併合当初に際り、朝鮮民事令に於て朝鮮人の親族相続に関しては、原則として朝鮮在来の慣習に依る旨規定せる所以なり。
然れ共、真乎内鮮一体を具現せんには、個人生活の根基たる親族相続に関する法制を内鮮一元化し、家庭生活延いては団体生活の一元化を図るより急なるはなきのみならず、慣習中には時勢の進運に伴はざるものを存するを以て、司法部は夙に裁判例を通じ、朝鮮人の親族相続に関する慣習を、漸次民法の親族法及相続法に近邇せしむるに努め、気運の熟するを俟て、其の都度朝鮮民事令に改正を加へて民法に依ることと定め、終始一貫右の態度を堅持して今日に及べり。
而して、多年に亘る裁判所の努力は漸く結実し、朝鮮民衆の間に法制一元化の指標の元に、司法々制改正調査依員会に於て、鋭意親族相続に関する全般的成文化を企図し、着々其の業進捗せり。
敍上の如くなるを以て、親族相続に関する部分的立法は努めて之を避くべく、且之を避くるを以て理想とすべし。
然れ共、前敍全般的立法は、民法の親族編及相続編の改正と密接不可分の関係に在るを以て、該改正に平行せざるべからざる所、該改正案を得るの時期は、目下の所予測し難しとの趣なるを以て、朝鮮に於ける該立法の■完了の時期亦予測し難きに至れり。
然るに、朝鮮に於ける婿養子制度の実現に対する要望は十数年前より擡頭し、近時該要望は愈熾烈急迫を加ふるに至りたると共に、民衆の間には、一般の輿論に徴し、早急に該制度の実現を見るに至るべしとの期待を抱き、家女を出嫁せしめざる者相当数に上れる実情なるを以て、之が実現を荏苒全般的立法完成の機に遷延するは、実情之を許さざる所なり。
仍て茲に婿養子を中心とし、之と連環関係を有する氏等に関する規定を設け、以て緊急の須要に応ぜんとす。
是、本令を改正する所以にして、本令改正に際り民法に一致せしむる建前に則れることは謂ふを俟たざる所なり。
啻纔に慣習に依れる部分存するも、之固より慣習を固定化せしめんとする趣旨に非ずして、全面的法制の一元化は、全般的立法の際に之を■りたるに過ぎず、過渡的立法としては寔に已むことを得ざるに出でたるものなり。
以下に條文に従ひ説明すべし。
併合当初は、当然急激な変動は反発を招く恐れがあるため、朝鮮人の親族・相続に関しては朝鮮の慣習によると規定していた、と。
しかし、真の内鮮一体を実現するには、個人生活の根っことなる親族・相続に関する法制を一元化し、家庭生活ひいては団体生活の一元化を図る事が急務なだけでなく、朝鮮の慣習中には時代に合わないものもあるため、司法部は以前から裁判例を通じて朝鮮人の親族相続に関する慣習を、徐々に民法の親族法及相続法に近づけるように朝鮮民事令に改正を加えてきたというのは、これまでも見てきた通りですね。
勿論、この「内鮮一体」というのは、御承知のとおりこれ以降も頻出する大きなスローガンなわけです。

で、朝鮮民衆の間では法制一元化に向けて、司法法制改正調査依員会において親族・相続に関する全般的な成文化が企図され、着々と作業進捗中。
従って、部分的立法は好ましくなく、また避けるのが理想だ、と。

しかしながら、全般的な立法は民法の改正と密接不可分であるため、民法の改正と同時期に行わなければならないが、現在のところいつ改正されるか見当もつかず、それに伴う朝鮮での親族・相続に関する全般的な立法も当然見通しが立たない状態。
それでいて、婿養子制度の実現に対する要望は最近特に増え、この制度が近く実現するだろうという期待を抱いて、家の女性を嫁がせない者が相当数に上る有様であり、全般的な立法なんて待ってられん、と。
だから、婿養子制度を中心として、関係する氏等に関する規定を設けて「部分的な立法」で対応する事にしたわけですね。

取りあえず理由書中においては、婿養子制度が主であり、創氏は従なんですねぇ。

第11條の3 婿養子縁組は、養子縁組の届出と同時に婚姻の届出を為すに因りて其の効力を生ず。
2 婿養子は妻の家に入る。

理由
法定の推定戸主相続人たる男子無き場合に於ても、女子は相続を為すことを得ざるを以て、必ず他家に出嫁するを朝鮮の慣習とす。
然れ共、親子の情愛よりせば、愛兒を他に嫁せしめて血縁遠き他人の子を養ひ、故らに親愛を求め且之に全財産を相続せしむるが如きは、人生自然の情誼に非ず。
婿養子制度を認めんが、家女は永く父母の家に在りて、養子と共に孝養を盡くすことを得るのみならず、法律上財産は養子に於て之を相続するも、結果より之を■るときは女子に於て之を承くるに異ならざるを以て、人生自然の要求に合致し、一家の団結を固うし、延いては良俗を維持する所以と為るべし。
依て、本改正に依り該制度を認むることと為したり。
即ち、本條第1項は、婿養子縁組の形式的要件に関する規定にして、間接に婿養子縁組の意義を開明せんことを期したり。

婿養子縁組は、養子縁組と婚姻を結合せる法律行為なるを以て、其の実質的要件は之を構成する2要素に分析して、各別に考察することを要すべし。
本改正に於ては、養子縁組の要件として養子は養親と姓を同じくすることを要せずと規定し、民法の養子縁組の要件に一歩接近せしめたる外、両者の要件に付ては姑く慣習に従ひ、全般的立法の際に於て一挙民法(改正案)に依らんとす。

元来養子は養親の家に入り、妻は夫の家に入るべきものなる所、婿養子縁組の場合に於ては其の何れかに依らざるべからず、本條第2項は、婿養子が妻の家に入るものと為したり。
理由を見ると、この條の設立理由と冒頭の理由中「家女を出嫁せしめざる者相当数に上れる」わけが分かりますね。

朝鮮の慣習に従った場合、自分の子供が女性ばかりだった場合、女性には相続権がありませんから、養子をもらってきて相続させるわけです。
勿論、「異姓養わず」ですから、同じ本貫であり同じ姓を持った血族の中から養子をもらってくる事になるわけですね。
ところが、朝鮮の慣習として「同姓は娶らず」もあるわけで、自分の娘とその養子を結婚させるわけにはいきません。
その養子は、どっか別の姓から嫁さん貰うわけですね。
最終的に自分の財産は、親戚と見ず知らずの嫁さんの物となり、自分の実子である娘には渡らないわけですね。
勿論、娘の嫁ぎ先で男子の孫が生まれても、孫の姓は嫁ぎ先の姓となるのであり、「異姓養わず」を生かしておくと、何人男の子の孫が出来ようが養子には出来ないわけです。
まぁ、当然抜け道はあるんでしょうがね。

一方で、「同姓は娶らず」ってのは、養子と婿養子の双方に関係する「異姓養わず」に比較すれば、日本にとってはそれほど重要ではない反面、朝鮮にとっては重要な問題なわけで。
おまけに「同姓は娶らず」を撤廃したところで、養子縁組等と違って必要性の面から見ても、恐らくは慣習的にそういう行為は続いていくと考えられるわけで、こちらは後回しという事になったんでしょうねぇ。
どちらかが廃止されれば、取りあえずの用は足りますし。

この辺の事情を見ていくと、これまでの慣習に従って何の問題もなかった既得権層である両班ではない、一般の民間資本の蓄積が増えてきたからではないかと思うわけですが、実際はどうだったんでしょうねぇ。


今日はこれまで。



朝鮮民事令と第11条の第1回改正
朝鮮民事令第11条の第2回改正
朝鮮民事令第11条の第3回改正(一)