6月14日のエントリーから続けてきた『公文類聚・第六十三編・昭和十四年・第百巻・司法一・裁判所・公証人・民事(民法・商法)/朝鮮民事令中ヲ改正ス・(壻養子制度創設及之ト関係スル氏ニ関スル規定)(レファレンスコード:A02030160700)』の解説も一段落したわけですが、もう一点創氏改名において大事な制令があります。
制令第20号です。

今日はそちらの方を見て、創氏改名について一段落付けたいと思います。
勿論、当初言ったとおり、思いついたときに続編を書くつもりではありますが。

ってことで、今日の史料は『公文類聚・第六十三編・昭和十四年・第百一巻・司法二・非訟事件手続法・抵当・破産・登記~陸海軍刑法/朝鮮人ノ氏名ニ関スル件ヲ定ム(レファレンスコード:A02030161100)』。
では、早速。

第1條 御歴代御諱又は御名は、之を氏又は名に用ふることを得ず。
2 自己の姓以外の姓は、氏として之を用ふることを得ず。
但し、一家創立の場合に於ては此の限に在らず。

第2條 氏名は之を変更することを得ず。
2 但し、正当の事由ある場合に於て、朝鮮総督の定むる所に依り許可を受けたるときは此の限に在らず。

附則
本令施行の期日は、朝鮮総督之を定む。
さて、これについても理由と説明が付いていますので、先にそっちを見ていきましょう。

理由
朝鮮人の氏設定に付制限を設け、且濫に之を変更することを禁ずる為、本令を制定するの必要あるに依る。


説明
朝鮮民事令の改正に依り、朝鮮人たる戸主又は其の法定代理人は氏を定むることを要する所、御歴代御諱又は御名を熟字の儘、氏として用ふることを禁ずるの必要あることは謂ふを俟たず。
而して、名を定め又は氏名を変更する場合に於ても、前示の制限を設くるの必要あるは同様なり。
是、第1条第1項を設けし所以なり。

氏の設定に付他人の姓を用ふるが如きは、各家を区別すべき標示として適切ならず。
是同第2項を必要とする所以なり。

氏名は、相合して個人を表彰するものなるを以て、濫に之が変更を認めざるべからず。
是、第2条第1項を設けし所以にして、右変更手続は、其の性質上朝鮮総督府令に依るを以て相当するが故に、同第2項を設けたり。
さて、まずは第1条第1項。
氏を定めるときは当然、天皇陛下の諱や名を熟字のまま使うのは駄目よ、と。
ちなみに、日本においては1876年(明治8年)に平民苗字必称義務令が出され、名字が義務化されたわけですが、それ以前の1870年(明治3年)の平民苗字許可令との間で、やはり同様の太政官布告が出されています。

御諱御名の文字使用方の件 (6年3月太政官布告第118号)

御歴代御諱竝御名の文字、自今人民一般相名乗候儀不及憚事。
但、熟字の儘相用候儀は不相成候事。
やっぱそういう人も居たんでしょうなぁ・・・。(笑)
ってことで、既に経験済みの制限事項だったりするわけです。

続いてが、第1条第2項。
自分の姓以外の姓は、一家創立の時以外は、氏として使っちゃ駄目よ、と。
この「自己の姓」は、氏の設定が戸主権に含まれ、それに基づいて戸主が一家の分を届け出るわけですから、戸主の姓でしょうね。
で、何度も言うとおり、姓は残るんですね。
その場合、他人の姓を氏とする事の弊害もあるでしょうし、みんなが名家の姓にしちゃう恐れすらあるわけで。(笑)

第2条の第1項は、氏名を簡単に変えられたら、行政面や司法面、商取引や保険や登記等々、個々人の同一性の確認が困難になるわけで。
現代日本でも氏名の変更ってかなり難しいですしね。
ま、当然の話。

で、第2條第2項は、良く歪曲されてこの制令全文にかかっているように解釈する向きもありますが、見てのとおり第2条に関する話です。
氏名は変えられないけど、特に朝鮮総督が定めた場合に許可受けたら、変えても良いよ、と。
日本でも「ダメ、絶対!」ではなくて、要件は面倒臭いですが変更可能なわけです。

さて、ここまで朝鮮民事令及びその改正過程と、「朝鮮人ノ氏名ニ関スル件ヲ定ム」を見てきました。
創氏改名に関する話は、また気が向いたときに続きを書こうと思うわけですが、一つ疑問があります。
これまで見てきた中で、設定創氏については所謂日本風の氏でなければならないとは、法律上どこにも書いていません。
期限までの最終的な設定創氏率は約8割と言われますが、その全てが日本風の姓だったのでしょうか?
何の法的根拠に基づいて、必ず日本風の氏にしなければならないとされているのか、何故か親日派とされてしまっている日本風の氏を創氏しなかった人々が、総て法定創氏だったのか、かなりぎもーん。


ってことで、今回はここまで。



朝鮮民事令と第11条の第1回改正
朝鮮民事令第11条の第2回改正
朝鮮民事令第11条の第3回改正(一)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(二)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(三)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(四)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(五)
朝鮮総督府編『朝鮮の姓』より