不定期連載を掲げていた創氏改名の連載です。
ちょいと前、某サイトの掲示板でヒントを頂きまして、その結果辿り着いたお話。

まずは、金英達著の『創氏改名の研究』から一部抜粋してみます。

朝鮮総督府法務局の『氏制度の解説』(1940年2月)には、次のように解説されている。
「<期間内に氏を届出でなかった場合はどうなるか>
昭和15年8月10日迄に氏の届出を為さなかった場合は、2月11日に於ける戸主の姓がそのまま氏となります。従って従来の金や李をそのまま氏としたい者は届出をしないで放って置けば良い訳です。」

実務上では、「林、柳、南、桂等の姓を有する者が、林(ハヤシ)、柳(ヤナギ)、南(ミナミ)、桂(カツラ)等内地式の読み方を以て氏と為さんとする場合其の届出の要なきところ」という1940年4月22日付の法務局通牒(7)でうかがわれるように、戸主の姓をそのまま氏とする創氏届は必要ないとされており、戸籍窓口の実際においては、そうした創氏届は受理しなかったことが推測される。

ということは、事実上、設定創氏は日本風の氏の設定に限定されていたのである。
この、「法務局通牒(7)」の出典が、朝鮮総督府法務局編纂『昭和十八年新訂 朝鮮戸籍及寄留例規(朝鮮戸籍協会 1943年12月)』になります。
内容的には例規集なわけですが、取りあえず金英達氏の根拠となっている文は後回しにして、『朝鮮戸籍及寄留例規』の「朝鮮民事令中戸籍條規及朝鮮戸籍令 附記 第6節 氏の設定」について、順に見ていきたいと思います。
画像、ちょっと小さめだけど、その辺は勘弁。

【画像1】

第6節 氏の設定
(民令附則(昭和14年制令第19号)、朝鮮人の氏名に関する件(昭和14年11月制令第20号)、朝鮮人の氏の設定に伴ふ届出及戸籍の記載手続に関する件(昭和14年12月府令第221号))

【1415】
戸主の姓又は前男戸主の姓を以て氏としたる戸籍に付、氏の校正未済のまま其の謄抄本の交付請求ありたるときは、之が校正を為したる上作製交付すべし。
従前の戸籍中、「本貫」欄は「姓及本貫」に訂正すべきものとす。
氏設定に因る戸籍訂正の記載は、新戸籍に移記を要せず。
氏の届書は、10日毎に取纏め、監督裁判所に送付すべし。

(19.2.56)(昭和15年1月10日各地方法院長、各地方法■支庁上席又は一人の判事宛 法務局長通牒)


氏の設定に伴ふ戸籍事務の取扱に付ては、左記事項留意せしめられたし。



一.昭和14年制令第19号(朝鮮民事令中改正の件)附則第3項に依り、戸主の姓又は前男戸主の姓を以て氏としたる戸籍にして、昭和14年朝鮮総督府令第221号(朝鮮人の氏の設定に伴ふ届出及戸籍の記載手続に関する件)第3条第1項但書の規定に依る更正手続未済のものに付、其の謄本又は抄本の交付請求ありたるときは、同規定に基く戸籍記載の更正を為したる後之を作製交付すること。

二.戸籍中「本貫」欄を「姓及本貫」に訂正し「本貫」の次に「姓」を挿入するに当り、欄内に記入し難きときは欄外に記入を為すも差支なきこと。

三.新戸籍編成の場合に於て、氏設定に因る戸籍の訂正の記載(届出を為さざる場合の戸籍の更正を含む)は、之を新戸籍に移記するを要せず。

四.氏の届書に付ては(朝鮮戸籍令第27條及戸籍事務取扱準則第18條の規定に拘らず)、10日毎に之を取纏め、監督裁判所に送付せしむること。
まずは1。
これが、6月21日のエントリーで設定創氏が必ず日本風の氏であるという俗説に、最も疑問だった点。
本来の戸籍業務上どう処理すんの、と。
自動的に姓が氏となる8月まで待てというのは理不尽だろうと思ったわけ。

最も、ここで明確に書かれている通り、戸主の姓や前男戸主の姓を氏にする事にした場合、戸籍謄本や戸籍抄本の交付を請求されたら、戸籍記載の更正をした後謄本や抄本を交付しなさい、と。
特に設定届けは必要ありませんでした。
ウリの予想、外れ。(笑)

次は戸籍の訂正方法に関する件。
一応、戸籍の画像はToron Talkerさんの所からお借りして置いておきます。

戸籍

この戸籍は法定創氏のものなわけですが、「氏の届出を為さざるに因り昭和15年8月11日李を氏としたるに付更正す」と記載があり、先ほどの戸籍記載の更正ってこういう感じなのかな?

次が、新戸籍を編成する場合について。
新戸籍を編成する時は、設定創氏の場合の戸籍訂正の記載も法定創氏の場合も含めて、新戸籍に書く必要は無いよ、と。
新しく独立して一家創設した場合とかの話かな?

4番目が、氏の届出書は10日ごとに取りまとめて、監督裁判所に送りなさい、と。

【画像1】

【1416】
用ふることを得ざる氏

(19.2.56)(昭和15年1月16日各地方法院長、各地方法■支庁上席又は一人の判事宛 法務局長通牒)


氏に関する諸法律は、本年2月21日より施行せらるる処、氏の設定及氏名の変更に付ては、左記事項留意の上之が運用に遺憾なきを期せられたし。



一.御歴代 御諱及 御名は別表の通

二.氏の設定に付ては、御歴代 御諱 御名の外、御歴代の追号、皇族の宮号、王公族の称呼、顕著なる神宮名又は神社名(例へば伊勢、櫃原、宮崎及靖國等)、皇室に由結深き家(例へば近衛、鷹司等の如き5摂家及久邇、■■等臣籍に降下せられし家)、歴史上及現代の功臣の氏(例へば東郷、乃木、西園寺)等を使用したるときは之を受理せしめざること。

三乃至六(略)
6月21日のエントリーでやった、制令第20号の第1条第1項で言われたものより、さらに細部にわたる留意事項ですね。
結構縛りがあります。
というか、これ韓国人に説明するの面倒くさそう。(笑)


今日はこれまで。



朝鮮民事令と第11条の第1回改正
朝鮮民事令第11条の第2回改正
朝鮮民事令第11条の第3回改正(一)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(二)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(三)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(四)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(五)
朝鮮総督府編『朝鮮の姓』より
朝鮮人の氏名に関する件
高元勳