はい。
今日は前置きなしで朝鮮総督府法務局編纂『昭和十八年新訂 朝鮮戸籍及寄留例規(朝鮮戸籍協会 1943年12月)』の中から、「朝鮮民事令中戸籍條規及朝鮮戸籍令 附記 第6節 氏の設定」の続きを。

【画像2】 【画像3】

【1423】
依用すべからざる旨定められたる氏を用ひたる届出の効力。
傭女、傭人等、戸籍記載に依り其の家の家族に非ざること顕著なるものを除き、錯誤に因り入籍したる者も戸籍訂正を為さざる限り其の家の氏に更正す。
制令第19号附則第2項、朝鮮人戸主には一家を創立したるに非ざる女戸主をも包含す。
新羅、高麗等を依用したる届出は、受理せざるを可とす。
内地人式読方を為し得る姓を氏と為す届出を強て為す場合は受理す。
戸主死亡し、未だ絶家とらざる戸籍の氏の更正方。

(19.5.48)(昭和15年4月22日各地方法院長、各支庁(除開城)上席又は一人の判事宛 法務局長 通牒)


首題の件に関し、別紙甲号の通京城地方法院開城支庁判事より照会あり。
乙号の通回答したるに付、御了知相成度為参考通知す。


(甲号) 氏の設定に関する件 (昭和15年3月18日法務局長宛 開城支庁判事照会)

首題の件に関し、左記の通り疑義有之に付、至急何分の御指示相仰度此段稟伺す。

一.府尹邑面長、左記に違反したる氏の届出を受理し、戸籍記載を為したる場合、朝鮮戸籍令第28條の適用ありや。
 (1) 昭和14年訓令第20号第1條。
 (2) 御歴代の御諡号、白河、東山等を氏としたるもの。
 (3) 昭和15年1月16日「昭和14年制令第20号及同年朝鮮総督府令第222号の運用に関する件」通牒中の左記の2。

二.昭和15年1月16日附前記通牒中、「顕著なる神宮名又は神社名、歴史上及現代の功臣の氏に付ては、通牒例示以外のものに付実務上に於ては如何なる範囲に制限せしむべきや。

三.戸籍上「傭女」「傭人」等の附籍者又は家族たる者の連子にして他家の相続人たる者、他家の家族が錯誤に因り其の家に入りたるものに付、戸主が氏の届出を為したるとき、及姓を氏とし記載を更正するに■りては、之等錯誤が戸籍上明白なるものに付ても、悉く氏に関する更正、訂正を為すべきや。

四.制令第19号附則第2項朝鮮人戸主中には、一家を創立したるに非ざる女戸主をも包含せらるるや。

五.往古朝鮮に於ける国名たる新羅、高麗等を依用したる氏の届出は、受理し差支なきや。

六.林、柳、南、桂等の姓を有する者が、林(ハヤシ)、柳(ヤナギ)、南(ミナミ)、桂(カツラ)等内地式の読み方を以て氏と為さんとする場合其の届出の要なきところ、強て届出を為す場合は受理するの外なきや。

七.相続に因り戸主となりたる単身戸主、氏制度実施前又は氏確定前死亡(3年内は絶家の手続を為し得ず)したる場合、氏の届出期間を経過し府尹邑面長が姓を氏としたるに付為す戸籍の記載の更正は、亡戸主欄に為すべきや。
若し一家創立すべき家族ある者に付ては、之が記載を為さざるときは、氏確定せざるものと思料せらる。
尚、此の場合の氏は如何に定むべきや。


(乙号) 氏の設定に関する件 (昭和15年4月22日開城支庁判事宛 法務局長回答)

首題の件、左記に依り了知相成りたし。

一.(1)朝鮮戸籍令第28條の適用あり。
 (2)、(3)右の適用なし。

二.戸籍事務取扱者の適切妥当なる判断に依るの外なきも、努めて寛闊なる取扱を為すべし。

三.傭女、傭人等戸籍記載に依り其の家の家族に非ざること顕著なる場合を除くの外、錯誤に因り其の家に入りたる者と雖も戸籍訂正の手続を為さざる限り、其の家の氏を称するものと■ふべく、従て之が戸籍記載を更正すべきものとす。

四.貴見之通。

五.可成受理せざるを可とす。

六.貴見之通。

七.戸主死亡し、未だ絶家と為らざる家に付、昭和14年制令第19号附則第3項の規定に依り姓を以て氏としたるときは、府尹邑面長は単身戸主なると否とを問はず、亡戸主の事項欄に左の如く記載し(事項欄の記載のみを以て足る)、家族に付ては一家を創立すべき者なると否とを問はず、昭和14年本府訓令第2号様式の記載を為すべし。
氏の届出を為さざるに因り昭和十五年八月拾壱日何を氏とす。
現在北朝鮮にある、開城の判事の疑義と法務局長によるその回答が、各地方法院や各支庁に送られた形となっております。

まずは、府尹邑面長が3つの例示に違反した氏の届出を受理して戸籍記載しちゃった場合、朝鮮戸籍令第28條の適用はあるのか、と。
相変わらず、朝鮮戸籍令のちゃんとしたものは見れて無いんですが、漢字ハングル混じりのテキストを見かけたので、それを見ると、どうやら一度記載してしまった戸籍の訂正等の規程のようです。
というか、これ9月25日のエントリーの【1418】とほぼ同義じゃないかと思うんですがねぇ。
要は、御歴代御諱又は御名と、一家創立の場合以外に戸主の姓じゃない姓を氏にした場合だけは、当然法令違反になりますので訂正等の処置対象になるんですが、9月25日のエントリーの【1416】のように法令で定められているわけじゃない縛りは、受け付けちゃったらそのままね、ということですな。

二つめは、9月25日のエントリーの【1416】中での「顕著なる神宮名又は神社名」とか「歴史上及現代の功臣の氏」とかって、基準は何よ?という疑義に対して、現場の人に任せるけどなるべくおおらかにね、と。
こういう質疑応答って、現場の担当者困るだろうなぁ・・・。(笑)

三つめはちょっと難解っぽく見えるけど、要は戸主が氏の届を出したり姓を氏として記載更正した場合には、戸籍上で他人と見なされているものはそのまま。
錯誤などであっても、戸籍上その家の者とされていれば、戸籍訂正の手続きしない限りそのまま戸籍更正しなきゃ駄目っていう、当たり前の話。

四つめも当然の話で、6月19日のエントリーの制令第19号附則第2項「朝鮮人戸主(法定代理人あるときは法定代理人)は、本令施行後6月内に新に氏を定め、之を府尹又は邑面長に届出づることを要す。」の戸主には、女戸主も含まれますよ、と。
それ以外どうせいっちゅう質疑ですな。

五つめ。
昔の国名である、新羅とか高麗なんかを氏とした届出は、受理しても差し支えない?という疑義に対し、成るべく受理しない方が良いなぁ、と。
9月25日のエントリーにおける、【1416】等の制限事項としては決められていなかった話なんでしょうね。
つうか、ここでも「可成」とか、何故か曖昧にしちゃう。(笑)

そして六つめ。
これが、9月25日のエントリー冒頭で紹介した、金英達著の『創氏改名の研究』における「林、柳、南、桂等の姓を有する者が、林(ハヤシ)、柳(ヤナギ)、南(ミナミ)、桂(カツラ)等内地式の読み方を以て氏と為さんとする場合其の届出の要なきところ」の話。
ところが、金英達氏の引用部分である「林、柳、南、桂等の姓を有する者が、林(ハヤシ)、柳(ヤナギ)、南(ミナミ)、桂(カツラ)等内地式の読み方を以て氏と為さんとする場合其の届出の要なきところ」では質疑は終わってないわけで。
「強て届出を為す場合は受理するの外なきや」という続きがあって、「貴見之通」と。

つまり、届出が必要無い場合であっても、強いて届出が出されれば受理せざるを得ない。
金英達氏が、この引用元からどうやって「戸籍窓口の実際においては、そうした創氏届は受理しなかったことが推測される。」という結論を導き出したのか、とても不思議。(笑)

部分引用で日本批判?
それとも史料記述が読めない?
これに言及せずマンセーしかしてない水野直樹や宮田節子って、馬鹿?


氏の設定は内地人式しか許可されてなかったという、もっとクリティカルな史料載せとけば良いのに。
俺の手間ばっか増えるじゃん。(笑)

ってことで最後の7つめ。
届出等出す前に戸主が死亡したときの手続き事例。
とりあえず、単身戸主であっても家族がいる戸主であっても、亡戸主の事項欄に「氏の届出を為さざるに因り昭和十五年八月拾壱日○を氏とす。」と記載。
その家族については、昭和14年本府訓令第2号様式の記載をしなさい、と。
嗚呼、また宿題が増えた・・・。_| ̄|○  (笑)

ということで、金英達氏の「戸籍窓口の実際においては、そうした創氏届は受理しなかったことが推測される。」という主張について、引用は部分引用であり、実際には正反対の事が書かれてましたとさ。
ま、まだ朝鮮総督府法務局編纂『昭和十八年新訂 朝鮮戸籍及寄留例規(朝鮮戸籍協会 1943年12月)』の中から、「朝鮮民事令中戸籍條規及朝鮮戸籍令 附記 第6節 氏の設定」は残ってますので、連載はもう少々続きます。


今日はこれまで。



朝鮮民事令と第11条の第1回改正
朝鮮民事令第11条の第2回改正
朝鮮民事令第11条の第3回改正(一)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(二)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(三)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(四)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(五)
朝鮮総督府編『朝鮮の姓』より
朝鮮人の氏名に関する件
高元勳
朝鮮戸籍及寄留例規(一)
朝鮮戸籍及寄留例規(二)
朝鮮戸籍及寄留例規(三)