さて、面白い話は9月28日のエントリーで終わってしまいましたので、後はサクサク進めて、今日で終わっちゃいたいと思います。
それでは今日も、朝鮮総督府法務局編纂『昭和十八年新訂 朝鮮戸籍及寄留例規(朝鮮戸籍協会 1943年12月)』の中から、「朝鮮民事令中戸籍條規及朝鮮戸籍令 附記 第6節 氏の設定」の続きから。

【画像4】

【1429】
家を異にする者の氏定まりたる場合の、氏の更正方。

(戸2.3.28)(昭和15年9月監督書記事務打合会決議)


五七 昭和14年府令第221号第3條第2項の更正に付、当事者より戸籍謄抄本を添付の上申出(職権発動を促す意味に於て)ありたる場合、更正して差支なきや。

決議
差支なし。
んー、内部の監督書記の打ち合わせの際の決議だけあって、専門的すぎて良く分からん。
昭和14年府令第221号第3條第2項に書いてるとおり「但し更正することを妨げず」ちゃうんかい、と。(笑)

【画像4】

【1430】
戸主相続届出前に為したる氏の届出は有効なり。

(戸2.3.28)(昭和15年9月監督書記事務打合会決議)


五九 新戸主より戸主相続届出前に為したる氏設定届は有効なりや。

決議
有効なり。
んー、これは旧民法というか朝鮮民事令的にどうなんだろう?
戸主権を、戸主相続の届出以前に行使可能かという問題になると思うんだけど、戸主が隠居した場合なんかは当然に届出が必要条件になるんだろうけど、死亡による戸主相続の場合は、届出の有無に係わらず死亡という実態が相続開始要件って事で良いのかな?
調べるの面倒臭いので、余り深く突っ込まずに「フーン」ということにしておきましょう。(笑)

【画像4】

【1431】
錯誤に因り戸主と為りたる戸主の氏設定届の効力、及其の復活戸籍に於ける氏の記載方。

(戸1.2.29)(昭和16年7月30日附京城地方法院開城支庁判事稟伺 同年8月8日附法民乙第458号 法務局長回答)


戸主相続権なき者が戸主となりたる戸籍に於て、当該戸主が昭和14年制令第19号附則第2項の期間内に設定届を為したる氏の効力に関し、左記両説あり。
甲号を相当と思料せらるるも、尚氏に関する戸籍記載例に付ても他に適切なる先例等見当らず、聊か疑義有之たるに付、何分の■御回示相仰度此段稟伺す。

甲説
戸籍上戸主たることの記載が錯誤なること明なる場合に於ても、当該戸主の為したる氏の設定届は之を受理せざるべからず。
而して、一旦之を受理し戸籍記載を為したる上は、其の家を表彰すべき氏は定まり、従って戸籍訂正に依り前戸主の戸籍を復活し、戸主たりし者が其の家を去り又は其の家に止まる場合たるとを問はず、其の家の称呼たる氏に変更を来すものにあらず。
故に之を無効とするは、氏制度の趣旨に反するを以て有効なり。

乙説
錯誤に因り戸主となりたる戸主と雖氏の設定届を為し得べきも、戸主相続権なき者、即ち錯誤に因る戸主相続は無効にして、当然前戸主の戸籍に復活せらるべく、此の場合復活戸籍には、前戸主の旧姓其のものを以て戸籍を編製するの外なきを以て、此の点に於て無効なり。


回答

首題稟伺の趣了承。
僭称戸籍相続人の戸主権の行使として為したる法律行為中、少くとも第3者に対する法律行為を除く以外の法律行為は、戸主相続の回復に依りて当然無効に帰するを以て、前戸主の戸籍を回復する場合に於ては、昭和14年制令第19号附則第3項の規定に依り氏を定め、之が戸籍記載を為すべきものと思考す。
(乙説の通)
戸主権を持たない者が、錯誤等により戸主として氏の設定届をした場合の対応について。

甲説は、戸主の記載が錯誤だと明らかな場合でも、その戸主が出した氏の設定届けは受理しなければならない、と。
まぁ、これまでも錯誤に関して、戸籍記載通りに取り扱う事になってましたからね。
で、その場合にも一旦届けを受理して戸籍記載してしまった以上、その家の呼称が定まったのであって、前戸主の戸籍を復活したからと言って元に戻すのは、氏制度の趣旨に反するから有効だ、と。
こちらを開城支庁の判事は相当だと考えてるんですね。

一方乙説は、同じく錯誤の場合であっても戸籍通り取り扱っても、錯誤による戸籍相続は無効であり、当然に前戸主の戸籍を復活した場合、前戸主の旧姓により復活戸籍を編制するのが当然だ、と。
こちらを法務局長は採るんですね。
さらに届出期間は勿論過ぎてますので、昭和14年制令第19号附則第3項の規定「前項の規定に依る届出を為さざるときは、本令施行の際に於ける戸主の姓を以て氏とす。」によって、姓をそのまま氏として戸籍記載すべきと考える、と。

んー、どの辺が日本式の氏の強要なんですかねぇ・・・。(笑)

【画像4】

【1432】
氏制度施行前絶家と為りたる家族が一家創立したる場合、原戸籍及新戸籍には氏更正の記載を要せず。

(戸2.1.21)(昭和16年10月釜山戸籍事務協議会決議)


氏制度施行前絶家又は家消滅したるも、未だ除籍せられざる家籍に在る者が、届出期限経過後一家創立の届出を為したる場合、絶家又は消滅したる家籍及一家創立に因る新戸籍に、氏更正の記載を要するや。

決議
氏更正の記載を為すことを要せず。
うーん。
戸主相続人が居ない場合に他に戸籍記載者が居る状況って、どんな状況なんだろう?
兎も角、そういう場合であって届出期限を過ぎた後に一家創立の届出をした場合、新しく調製する戸籍には氏更正の記載は不要だよ、と。
ここも、あまり深く突っ込まないで先に進みましょう。(笑)

次で、最後になります。

【画像4】

【1433】
氏の更正を為す場合の戸籍に記載すべき日附。

(戸2.3.27)(昭和16年10月裁判所戸籍主任会議決議)


五〇 氏の更正を為す場合、戸籍に記載する日附は昭和15年8月11日とすべきものなるに不拘、実際に更正を為したる日附を記載したるものあり。
之を其の儘となし置くも差支なきや。

決議
差支なし。
これまでの記述を見るに、氏の設定届けを出した場合は訂正。
姓がそのまま氏になる場合には更正と呼ばれ、厳密に分けられております。
そうであるなら「実際に更正を為したる日附」ってのは実に興味深い記載ですね。

勿論、9月25日のエントリーでの戸籍謄本や戸籍抄本の交付を請求による戸籍記載の更正という可能性はありますし、更に事後に姓を氏にする処理を行うわけですから、その日付である可能性は、当然あります。
また、これが当初からの疑問点である氏の設定率の統計に、どのように絡んでいるのかも不明。

尤も、こういう記載がある以上従来の言説の確認作業というものが必要になると思うんですがねぇ。
逆に、氏の設定率の統計が所謂「設定創氏」が氏の設定のみを指しているとしても、従来の姓を氏とする場合には「更正」になるんだから当然であって、日本風(内地人式)の氏を政策的に強要したという論拠にはならんよ、という反論も可能ですな。

宿題も結構あって、不明点も多かった今回の連載再開でしたが、得た物は多かったようです。


ってことで、今回はここまで。



朝鮮民事令と第11条の第1回改正
朝鮮民事令第11条の第2回改正
朝鮮民事令第11条の第3回改正(一)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(二)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(三)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(四)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(五)
朝鮮総督府編『朝鮮の姓』より
朝鮮人の氏名に関する件
高元勳
朝鮮戸籍及寄留例規(一)
朝鮮戸籍及寄留例規(二)
朝鮮戸籍及寄留例規(三)
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朝鮮戸籍及寄留例規(五)