さて、前回から始まった裁判の模様。
早速、嫌な予感のする書き出しだったわけですが、今日はどうでしょうか。
では、今日も1909年(明治42年)1月29日付『機密送第6号』に付属の『別紙甲号』の続きを見ていきましょう。

12月15日午前10時開廷。
昨日に続き、「Dr. Dumwalt」に対する取調を了へ、当市解剖医「Dr. J. R. Clark」をして、「ス」氏死体解剖及傷所の状況を詳述し、「ス」氏の傷所は2ヶ所共致命傷たりしことを証言せしめ、尚「ス」氏の遺体より剔出したる弾丸2箇を認証せしめて証拠品として提供し、午後は或る判事の死亡に対し吊慰を表する為め休廷したり。
翌日は、前日に引き続いてスチーブンスの治療に当たったDr. Dumwaltの取り調べと、サンフランシスコ市の解剖医によるスチーブンスの剖検結果等の報告。
証拠品として、スチーブンスから摘出された弾丸2個、と。

12月16日午前10時開廷。
「フエアマウントホテル」の自動車馭者にて、「ス」氏遭難を目撃したる「F. Dr. Schneides」及、当市収税官吏にして凶行現場に於て張仁煥を捕縛したる「Thomas Sexton」の2人を召致して証言をなさしめ、本日午後及17・18日及21日は、現場に居合せたる鉄道駅夫「James Cruser」及張仁煥の捕縛護送等に従事したる巡査「Peter Buras」「James McGrath」「Henry Qwens」「Jahn T. McDanns」「James Gleason」等及探偵「コーンラン」、逮捕局書記「James J. Hourihan」及検事局日語通訳「C. H. Gappney」を召致して、彼等の目撃したる事実并に張が彼等に向って為たる会話を詳述せしめて、犯行の事実と張の自白の動すべからざる証拠を提供して余す処なく、21日午前を以て検事側証人の取調を了す。
同日午後、被告側弁護人「コフラン」は、「Opening Statement」として陪審官に対し、張仁煥犯行の当時、本人は精神に異状を呈し居り、同人の凶行は法律上制裁を免るべき性質に属す。
本弁護人等は、之を以て弁護の主脳となすものにて、以下召喚証人に拠り本人の精神に異状あり、且つ如何にして変状を来すに至りたるかを明示すべきに依り、前後の事情を考察し正当の判決を下さんことを希望する旨を述べ、直に韓人李某及張羅得の2名を召喚し、張仁煥は凶行前より挙動異常にして、彼等は確かに狂者なる旨を証言し、之が認定の基礎として張との談話に彼等の所謂「ス」氏の非行なるものを縷述せしめしも、彼等の証言は単に想像に止まるものにて、根拠なき証言は、検事側の詰問に対し往々齟齬の答弁をなし、陪審官に対し多大の印象を与ふるに足らず。
16日は、事件を目撃した運転手の証言及び張仁煥を捕まえたサンフランシスコ市収税官吏の証言。
17・18日と21日午前は、現場に居合わせた駅員と張仁煥の護送をした巡査と探偵、逮捕局の初期と検事局の通訳による証言により、最終的に犯行の事実と張仁煥の自白を証拠として提供し、検事側の証人取り調べ終了。
だからさ、その中身が知りたいんだってばよ・・・。

21日午後になって、今度は弁護側。
冒頭陳述で、犯行当時の張仁煥が精神に異常をきたしていたとして、無罪主張。
ま、法廷戦術ですな。( ´H`)y-~~

で、李某と張羅得を召喚して、張仁煥が犯行前から挙動がおかしく、確かに狂者だと証言。
その認定の基礎として、張仁煥との談話で彼等の言う所のスチーブンスの非行を話させたけれども、彼等の証言は単に想像に過ぎず根拠も無いので、検事側の質問に対して時々食い違った答弁をして、陪審官に大きな印象を与えるには足りなかった、と。
その辺、ENJOY Koreaの韓国人も同じなわけですが・・・。

12月23日に至り被告弁護士等は他にも4、5の証人あるも大概前記2名の証言と大差なきを以て、時間省略の為め之を略し、従て検事側に於て此上証人を提出せず直に弁論に入らんことを請ひしも、検事側の容るる処とならず、終に被告側は前記2名の証人を止め、検事側よりは張の精神状態に関し証言せしむるため、「Dr. Lustig」「Dr. Wadswarth」(当市「Insanity commitee」にして、「Knight」より出廷証言の約を取結び置きたるもの)及当州立癲狂病院の亜細亜人掛長「Dr. Hoisthalt」をして証言せしめたるが、3医師とも法廷に於ける各種の証言に徴するに決し、張は発狂者にあらず。
又普通の精神状態に在るものは、右の如き場合に於て俄かに発狂する者にあらざる旨を証言し、殊に「Dr. Haisthalt」4月中旬以來屡々張を獄裏に訪ひ種々の取調をなしたるに、張は狂者を装ひ居るも、決して狂者にあらざる証跡を得たる旨を証言し、全く証人の取調を了す。
12月23日、被告側弁護人は他に証人はいるものの、李某と張羅得の話と大体同じであるため省略するから、検事側もこれ以上証人を出さずに直ぐに弁論に入ろうと述べるわけですが、検事側拒否。(笑)
検事側は、張仁煥の精神状態について証言させるため、医師2名及びサンフランシスコ州立癲狂病院のアジア人掛長を召喚。
3人とも法廷での各種証言から、張仁煥は発狂者ではないと断言。
特にサンフランシスコ州立癲狂病院のアジア人掛長「Dr. Hoisthalt」は、獄中の張仁煥を訪れ種々の取り調べをした所、張仁煥は狂者を装っているが、決して狂者ではない証拠を得たと証言し、総ての証人取り調べ終了。

つうかさ、「義挙」なんだろ?
だったら、狂者なんか装わずに堂々としてろよな。(笑)


12月24日彼此の弁論に入り、先づ検事側として「ナイト」氏は、被告張仁煥犯行の事実に関しては、既に提供したる証人に拠り其証拠動かすべからざるものあり。
本件は実に悍悪なる殺人犯にして、予め計画したる証跡顕著。
何等恕すべき点なく、被告弁護士は其発狂を主張すと雖も、其事実にあらざる事は当地有数の専門医師の証言に徴して何等の疑なく、又た被告は「ス」氏が田を追跡するを見て、同胞の危急を救ふための正当殺人と称すと雖も、此れ実に一笑にだも値せず。
田雲明は張の共謀者にして、張が「ス」氏を射撃したるは彼等共同の目的を遂行したるものにして、之もしも正当殺人となすに於ては、強盗も相棒庇護の名に其罪を免がれ、其弊盡くる処なからん。
被害証人等は、「ス」氏の非行を云々すと雖も、之れ実に各国其弊を免がるること能はざる所謂黄色紙の記事に拠りたるものにて何等の根拠あるものにあらず。
反之「ス」氏が韓国に対してなせし功績に対しては、我々種々の資料を有するも、法廷の規定茲に説明すること能はざることを憾む。
然かも「ス」氏性情の高潔なるは、証人の言に徴するに、「ス」氏の病床に張を携へ其認識を求むるの際、被告の悪口に対し「ス」氏は曰く、「汝無知の輩、我が如何に韓国に盡したるやを知らず。嗚呼我汝を恕せん」と、現に命を其凶手に捐つるを知りつつ、然も其無知を憐みて其罪を恕す。
「ス」氏の為人察するに難しからざるべし。
「ス」氏は未開化の韓国に於て、安全に其職を盡し、其郷国たる当地に入て此の凶手に斃る。
「ス」氏は能く之を恕するも、我法何んぞ之を恕すべけんや。
乞ふ被告を一等殺人犯の重罪に処せんことをと、約1時間半に亘る論告をなし、続て被告側よりは「Barrett Ferral」及「Caghlan」の3人約1時間余に亘る弁論をなしたり。
24日、検察側弁論。
まぁ、張仁煥がスチーブンスを殺害したという点に関しては、争点になってるわけでもなく。
で、計画的殺人である証拠が顕著だ、と。
弁護士は犯行当時張仁煥が発狂していたというけど、それが事実では無い事は専門医師等の証言でも明らか。

また、張仁煥はスチーブンスが田明雲を追いかけるのを見て、同胞の危機を救うための正当殺人というが、これは話にならない。
田明雲は張仁煥の共謀者であり、張仁煥がスチーブンスを射撃したのは彼等の目的を実行したに過ぎず、これを正当殺人とするなら、強盗が相棒を守るためであってもその罪を免れる事となるぞ、と。

さらに証人達はスチーブンスの非行について述べたけど、これはどの国もその弊害から逃れられない所謂イエローペーパーの記事によるもので、何の根拠がある話でもない。
反対にスチーブンス氏が韓国に対して行った功績については、種々の資料を持っているが、法廷の規定によって説明できないのが残念だ、と。
いや、11月11日のエントリーで日本が送った資料、全部無駄かよ。(笑)

しかもスチーブンスの性情が高潔であるのは、証人の言により、スチーブンスの病床に張仁煥を連れて行った時に、張仁煥が悪口を言うのに対して「お前は何も知らないから仕方ないよね。許してやるよ」と、死にゆく事を知りつつ無知を憐れんで罪を赦した事に見ても明らかだ、と。
この辺、11月8日のエントリーのロサンゼルス新聞に見ることができますね。
だからさ、奴らに情けかけちゃ駄目なんだって。(笑)

ということで、検事側は一等殺人犯の重罪を論告し、その後弁護側の弁論に移るわけです。


今日はここまで。



スチーブンス暗殺事件(一)
スチーブンス暗殺事件(二)
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