張仁煥の裁判に模様について。
前回は、検事側による医師や事件目撃者等の証言に引き続き、弁護側は張仁煥は事件当時発狂していたと主張し、その後検事側の論告が終わった処までを見ました。
今日はその続きですので、弁護側の論告という事になります。
それでは、1909年(明治42年)1月29日付『機密送第6号』に付属の『別紙甲号』の続きを。

其云ふ処は、張が凶行の当時是非の認識なき境遇にあり、其行為に対して法律の制裁を免がるべきものなるは、当然法律の規定する処。
且つ「ス」氏が田雲明を追跡するを見て、田の危急を救はんが為め発砲したるものにて正当殺人なるのみならず、「ス」氏の死亡は主として医師の不注意によるものにて、現に田明雲は同時に肺貫通傷を受けたるも、医師の手当宜しきを得たるため既に全快に到りたるにあらずや。
殊に張が喪心の悲境に陥りたるは、故国を愛するの熱誠に出でたるものにして、目下韓半島に於ける彼の同胞が、日政府圧迫の下に悲惨の境遇に沈淪しつつあるを聞き、仰で天に訴へ俯して地に哭し、憂愁綿々遂に其恒を失ふに至る。
其心事を顧みれば、実に同情に堪へざるものあり。
而して、韓国の此の窮状に陥るは一に「ス」氏の奸策によるものにして、証人の言に徴するに、彼等は日韓條約訂結に際し国璽を横奪して擅に之を約書に鈴し、韓国千載の耻を貽す。
彼は名を韓国顧問に借り、陰に陽に日本を佐けて盡さざる処なく、韓国独立の滅亡は実に彼の手によりて画せらる。
今回の凶変、真に適好の報償を得たるもののみと、巧に証人の言を利用して日本の圧迫と韓民の窮状を訴へ、以て陪審官の同情を得んと試み、最後に市副検事「Hanley」氏は、前記被告3弁護士の所論を痛駁し、本件は共謀者を有する残悪なる殺人なれば、充分重きに従ひ処断せんことを乞ふ旨、此又1時間半に亘る論告をなし、同日午後5時半全く論告を了へたり。
弁護側は相変わらず責任能力の有無から入るわけです。
さらに、スチーブンスが田明雲を追跡するのを見て、田明雲の危機を救うために発砲した事から正当殺人に当たるだけでなく、スチーブンスの死亡は医者の不注意によるもので、現に田明雲は肺に貫通傷を負ったのに、医者の手当てが適切だったために全快したじゃないか、と。

惜しいなぁ。
田明雲が誰に撃たれたか知りたかったのに。(笑)
まぁ、スチーブンスの死亡が医師の不手際によるものという主張は、11月6日のエントリーで開腹したら貫通創が6ヶ所あった話等、あり得ない主張ではないんでしょうけど。
まぁ、早期に見つけていたら治癒していたかという話とは、別な問題でしょうしね。

で、特に張仁煥が心神喪失状態になったのは、故国を愛する熱い思いから来ており、今の韓半島に於ける彼の同胞が、日本の圧迫の下で悲惨な境遇に落ちぶれている事を聞いたからだ、と。
いや、悲惨な状況に落ちぶれたんじゃなくて、ずっと沈みっぱなしだから。( ´H`)y-~~

それを、スチーブンスに責任転嫁。
日本は日韓条約の締結に際して国璽を奪ってこれを条約書に押し、スチーブンスは名を韓国顧問に借りて表に裏に日本を助けまくり、韓国独立が失われたのはスチーブンスの手で企てられたものだ、と。
基本、1905年(明治38年)11月23日の『チャイナガゼット』夕刊辺りの情報を、反日新聞が拾ってたかどうかして知った話だと思うわけですが、そもそも『チャイナガゼット』自体上海でのロシアの機関新聞とされてるわけで。( ´H`)y-~~

兎も角、今回の事件はその報いを受けただけだと、巧みに証人の話を利用して日本の圧迫と韓国人の窮状を訴え、陪審官の同情を得ようとする。

最後にサンフランシスコ市の副検事が、その弁護士等の弁論に痛駁して、今回の事件は共謀者もある残悪な殺人であり、充分に重い処断をという論告をし論告終了。

なんか、淡々と記載してあって、ツマンネ。( ´H`)y-~~ (笑)

同夜8時、再び開廷。
陪審官に対し判事の論告常例の如く、同9時15分、陪審官は評議の為め別室に退き茲に密議を凝らし、11時35分出廷。
被告の2等殺人犯と判定したる旨を報告し、判事は来る26日午前10時、刑期の宣告を与ふる旨を宣し閉廷したり。

以上の通り、張仁煥に対する裁判は、今後単に判事の刑期宣告により一段落を告ぐる事と相成り、其刑期としては2等殺人犯は10年以上終身懲役に有之候得共、此際終身懲役は殆んど望みなきものと認められ候。
本件の如き、事実尤も明白なるものにして、単に2等殺人犯の判決を受くるは聊か遺憾の感なき克はず候得共、目下一般に死刑反対の傾あるの際、殊に当地の如き対日本の悪感情を抱き居る処に於て、一般公衆より成立する陪審官の判決を受くるものに候へば、前記の判決も寧ろ成功と称すべきものと被存候。

被告側に於て、今後再審又は控訴をなすや否やに就ては未だ何等知るを得ず、26日刑期の宣告は、被告側に於て再審するや否やに関し考慮を要する旨を以て延期を請求し、本月30日宣告のことと相成候。
兎に角、被告側弁護人等は2等殺人犯の宣告は、寧ろ彼等の成功となし、控訴は却て加重の虞あるやに考へ居る趣に有之候処、其後被告張は、長期の牢居よりは寧ろ死刑を望む旨を主張し居る由にて、或は捨鉢的に控訴を試むるやも不計、目下の処にては未だ何等決する処無之様子に有之候。
何れ、近日決定の上は又々可及御報告候。
尚、本件に関しては、韓人等は弁護人等に多額の金員を支払ひ居るを確め候。
是等の金額は、到底当地在留韓人の寄附のみにて支弁し得べきものに無之。
此が出所探聞方、目下苦心中に有之候。
右裁判状況に関し、当地2、3新聞切抜相添へ、及御報告候。
敬具

追て、本日の宣告も又々延期。
来年1月2日宣告の事と相成候間、御承知置相成度候。
ということで、クリスマスイブに陪審官の審議。
結果、陪審官等は張仁煥を2等殺人犯として判定したと報告し、判事は26日に刑期宣告する旨を述べて閉廷。

当時のアメリカの1等殺人犯と2等殺人犯の差異が良く分からないんですが、勿論1等殺人犯の方が重いのでしょう。
そして、それは日本の希望通りではなかったものの、死刑反対の風潮やそもそもスチーブンスが渡米する切っ掛けになったサンフランシスコの反日感情などがあるわけで、陪審員による判決という事を考えれば、寧ろ成功だろうと。
陪審員制度の欠点の一つでしょうね。
まぁ、世論を取り入れるという観点からすれば、背中合わせの事ではあるんですが。

再審請求や控訴するかどうかは、この段階で未定であり、それを考慮する時間を取るため、26日の刑期宣告は30日に延期。
兎に角、弁護人達は、2等殺人犯の宣告は勝利とみなして、控訴しない方針らしいけど、張仁煥は長期間牢屋に入れられるよりはいっそ殺せと言っているようで、捨て鉢になって控訴するかも、と。

ちなみに、今回の件に関して韓国人等は弁護士などに多額の費用を支払い、その金額は到底在米韓国人の寄付で賄えるものではない。
そこで、その金の出所を探しているけども苦心中。

最後に、追伸として刑期宣告は更に1月2日に延びたよ、と。

ふう。
やっと裁判経緯終わった。


今度は、刑期宣告に当たる『別紙乙号』となるわけですが、今日はここまで。
次回で一区切り。



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