さて、万民共同会の運動の結果中枢院の議官となった李承晩が、どのようにして墜ちていくかを主眼にした、以前の連載への補足の2回目。

前回は、中枢院から議政府へ推挙する人材選びの中で朴泳孝や徐載弼の名が取り沙汰され、結局反対派を押し切って、朴泳孝は該当しなさそうな根拠を以て、朴泳孝や徐載弼に対しては特に参考意見を付して回送した話と、その参考意見の中身まで見ました。

今日もまず、アジア歴史資料センターの『公文雑纂・明治三十二年・第六巻・枢密院・枢密院、宮内省・宮内省、外務省一・外務省一/朴泳孝召還ノ建議ニ関スル件ニ付在韓国京城加藤公使ヨリ報告ノ件(レファレンスコード:A04010049100)』から、1898年(明治31年)12月27日付『発第88号』の残りを見ていきましょう。

然るに、万民公同会亦去る19日を以て右召還のことを会議に附し、竟に委員3名を撰で大罪科の有無を裁判せられ度旨、法部に訴願することに議決し、同日該委員3名は法部に出頭して願意を申出でたるに、朴氏問題は陛下の大権に属し、法部の処辨し能はざる処なりとの指令を附して、却下せらるるに至りたり。
然るに又、前主事李錫烈なるもの30余名の疏頭となり、同様召還の上疏を捧呈したるに、22日該疏を却下せられたるのみならず、該疏頭者を捕縛すべしとの詔勅を下されたり。
12月16日に中枢院で、「捕まえて議論した後、罪があれば国法で罰するし、無ければもしかしたら任用されるかも知れないから良いじゃん」ってことで朴泳孝なんかも議政府に推薦する事が決まると、万民共同会は12月19日にこの件について会議するわけです。
で、委員を3人選んで朴泳孝に大罪科があるか無いかを裁判して欲しいと、某部に訴えるわけですね。
すると法部では、「いや、朴氏問題は高宗の大権に属するから、法部で対応するの無理。」と、まぁ与えられてる権限からすれば妥当な返答で却下するわけです。

そんな事で諦めない万民共同会は、李錫烈が30余名の筆頭となって、朴泳孝召還の上疏を提出するんですね。
ところが、12月22日に上疏を却下されただけでなく、この上疏した筆頭者を捕まえろという詔勅が出ちゃうんですね。

其言に曰く、

逋犯の罪赦すなきは、国あっての常典なり。
而即ち聞くに、朴泳孝任用の事を以て肆然疏を投ずる止た一二のみならずと云ふあり。
是れ豈に臣民の口に発すべき処のものならんや。
駭歎の極、寧ろ云ふなからんと欲す。
原疏は秘院(秘書院)より退却すと雖も、此れ若し厳に懲辨を行はずば則ち法施す所なく、国以て国■なすなし。
其れ法部をして警務庁に申飭し、疏頭李錫烈等の諸犯を絅拿したる後盤復情を得、律に照して登聞せよ。
詔勅の内容。

お前、逃げ出した者の罪を許さないのは国として当然でそ?
それなのに、聞けば朴泳孝を任用しろって堂々と上疏してんの、1つや2つじゃないみたいじゃん。
お前等、ふざけんなよ。
呆れてものも言えねーぞ。
もう疏状返したけどさ、これに厳しく懲戒処分しなきゃ法治国家じゃねーだろ。
法部から警務庁に言って、李錫烈等を捕まえた後取り調べて報告しろよ。( ´H`)y-~~

いや、法治国家気取りかよ。(笑)

之れに関連して、同時に亡命者に関する詔勅を下されたり。
即ち左の如し。

法律なるものは、信を国中に昭かにする所以。
罪ある者は刑に服し、罪なきものは免を賜ふ。
乃ち古今の通義なり。
朕服嗣以来上天生を好むの徳を体し、先王失を寧んずるの訓に尊び、罪の疑しきは惟れ軽くし、刑は無きに期す。
輓近紀綱解馳し、国事を以て犯すある者、輒ち亡命を以て能事となし、曾て君徳の玷累国体の虧損を顧みず。
念ふて此に及べば、寧ろ痛惋せざらんや。
凡そ域外に逋逃する者、本罪の大小軽重を論ぜず、亦該犯の魁たり従たるを問はず、其乱臣賊子たる一なり。
邦に常憲あり、永遠赦すなし。
惟だ尓■臣民咸な須らく知悉すべし。

此詔勅に亜て、本問題運動の中心点たる公同会へも解散の詔勅下りたるを以て、公同会員は時勢に鑑み大に考ふる所あり、断然、本問題を別事件として当分主張することを停止することに取極めたる由なれば、本問題は向後有無の間に立消へ可申姿に有之候。
右及具報候。
敬具
で、ついでに亡命者に関する詔勅が出るわけです。

法律というものは、信義を国内に示すためのものであり、罪がある者は刑に就き、罪が無い者は免除されるというのは昔も今も変わらない。
ウリが王位について以来、天帝やご先祖様に従って、罪を犯したかどうか疑わしい者には罪を軽くして刑罰は無いようにした。

最近は綱紀が弛んで、国事犯は亡命すれば良いとして、ウリの徳とか国家の体面を毀す事を顧みないんだけど、ちょっとは考えろや。
国外逃亡犯は、元々の罪の大小や軽重関係なく、また、その犯罪の主犯だろうが従犯だろうが関係なく、彼等が逆賊である事に変わりない。
国家には常に守るべきおきてがあり、永遠に許されないということを、お前等良く分かっとけ。( ´H`)y-~~

ということで、「国外逃亡犯は永遠に許さないからな!」という詔勅なわけです。
更にこれに続いて、万民共同会へも解散の詔勅が下る。
つうか、何回解散の詔勅出てんだよ。(笑)

これらの詔勅を受けて、万民共同会員は時勢に照らして大いに考え、今回の朴泳孝任用問題に関しては当分主張するのを止める事にしたそうなので、この問題はその内立ち消えになるでしょう、と。

そういうわけで、朴泳孝任用問題に関する件については、万民共同会がビビッて止めるという話で決着するかと思いきや・・・。


今日はこれまで。



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