アジ歴で、「朝鮮総督府刊行物」の階層が出来ました。
「朝鮮土地調査事業報告書追録」やら、「朝鮮の小作慣習」やら、「朝鮮ノ土地制度及地税制度調査報告書」やら、「韓国に関する条約及び法令」やら、「現行朝鮮総督府法規提要」やら、非常に楽しみな簿冊がずらっと並んでいるわけですが、まだ画像は公開されておらず・・・。
まぁ、のんびり待ちたいと思います。

さて、前回までで笞刑に関して大明律から刑法大全までの流れを見ました。
で、今日は標題の『民籍法』について。

「何で笞刑に関する整理なのに民籍法なのよ?創氏改名じゃねーの?」と疑問に思う向きもあるかもしれませんが、個別法令中に笞刑の規定がある法令の代表として、これを取り上げてみようと思った次第。
勿論、今回の条文や解説を援用して、そのうち創氏改名のカテゴリーでもう一回民籍法のエントリーを挙げたいと思います。

さて、民籍法。
1909年(隆煕3年)3月6日『官報第4318号』で公布された『法律第8号 民籍法』ですね。
まずは、その官報画像から。

民籍法2民籍法1
(各クリックで拡大)

相変わらず漢字ハングル混淆文は読む気にならないので、必死になって訳文を探してみます。
見つかりました。
アジア歴史資料センターの『韓国警察報告資料巻の2(レファレンスコード:A05020350400)』の146画像目から160画像目までの、『民籍法の説明 附同執行心得』を使っていく事にしたいと思います。
条文をメインで取り上げ、それ以外の部分については参考にして解説する感じで進めて行きたいと思います。
では、早速。

民籍法(隆煕3年3月4日 法律第8号)

第1条
左記各号の一に該当する場合に於ては、其事実発生の日より10日以内に、本籍地所轄面長に申告すべし。
但し、事実の発生を知ること能はざるときは、事実を知りたる日より起算す。

1 出生
2 死亡
3 戸主変更
4 婚姻
5 離婚
6 養子
7 罷養
8 分家
9 一家創立
10 入家
11 廃家
12 廃絶家再興
13 附籍
14 移居
15 改名
前項の事実にして2面以上の所轄に渉るときは、申告書各通を作り、申告義務者の所在地所轄面長に之を申告すべし。
1号から15号までの事実が発生したら、その発生した日から10日以内に本籍地の面長に申告する事。
次の「但し、事実の発生を知ること能はざるときは、事実を知りたる日より起算す。」というのは申告期間の例外を示すもの。
事実が発生したけど、申告義務者が遠隔地にいる等何らかの事情でその事実を知ることが出来ない場合に、起算日を知った日として10日以内に申告する事、と。

で、まず1号は出生で、嫡出子、庶子、私生児等を問わず、総て胎児が母体から分離した時。
2号は死亡で、解説は要らないよね。(笑)
3号は戸主の変更で、朝鮮では隠居の慣習が無いため、戸主死亡の時にだけ発生するようだ、と。
4号は婚姻で、夫が他家の女性を妻とする一般的な結婚と、招婿、改嫁の3種類がある、と。
招婿は、日本で言うところの婿養子。
改嫁は、日本で言うところの入夫婚姻で、女戸主である妻の家に夫が入る結婚。
5号は離婚で、これも解説不要だと思います。

6号は養子。
養子には普通の養子と収養子がある、と。
普通の養子の方は、養親も養子も同姓同本の親族で、養子の方は親等が養親より常に1等下位にいる者。
朝鮮の慣習では、養子は養親の甥に相当する者に限るようだ、と。
収養子の方は、昨年の6月20日のエントリーでも結構詳しく触れましたが、普通の養子の方の原則によらない他人の子供を収養する場合。
んで、やはり捨て子を収養子として養子にする実例は多い、と。
つうか、もう去年の話になっちゃってるのか・・・。(;´H`)y-~~

7号は罷養で、養子縁組の解除、つまり親子関係の消滅を言う。
8号は分家で、ある一家から分かれて他に一家を創る事で、当然それによって本家と分家の関係を生じる。
勿論、元は同じ一家なので同姓同本。
戸主の弟やその他の家族が、戸主とは別に同系の一家を創る事を言う、と。
9号は一家創立で、新しく独立した一家を創る事を言い、捨て子等が婚姻や養子縁組で他の家に入ったけど、離婚や罷養によって実家に帰る事になったのに、その実家が廃絶していたりで元の籍に戻れない時や、戸主を失った家族が新しく一家を創って戸主になる時や、従来自分の家が無く、他の家に雇傭されていたり寄食していた者が、新しく一家を創って戸主になる時を言う、と。

10号は入家。
戸主や家族の親族が、婚姻や養子縁組をしないで籍に入る事を入家と言う。
例を挙げれば、戸主の甥で他家にいる者が養子縁組をしないで籍に入ったり、妻の連れ子が婚家に入る場合や、妾として夫の家に入る場合、と。
ちなみに、備考として妾についての話が載っています。
妾は、古来の慣習によれば単純な所謂不倫関係ではなく、夫の家族としての関係を認めたもので、妾は夫と同居するのが常態であり、夫に対して一種の義務を負い、総て夫の支配関係に服従する。
しかし、妾の産んだ男子は、正妻に男子が居ない場合には当然家督相続権を有している。
妾の産んだ子がいても、他の親族間で養子とすべき者が居る時には、養子にするなどして相続者とする場合もあるが、妾の産んだ子でも家督相続権があることは疑い無い、と。
有名なところでは、李完用、李允用兄弟が妾腹ですね。

11号は廃家で、生活に困った戸主がその家を廃して、他人の家族となっちゃう場合等に行われる、と。
同様な物に絶家があるけど、そっちは家督を相続する者が居ない等で、自然と家が無くなる事。
勿論、届け出る者が居るはずも無いので、第1条の届出規定には書かれて無いわけですな。
12号は廃絶家再興で、一旦廃家・絶家となった家の家名を襲名する事。
例えば、貧乏で一回廃家して他人の家に入ったけど、時機を得てその家名を復活させた時など、と。
勿論、他人による家名再興は不可。

13号は附籍。
所謂奴婢として主家に使役されている者や、自分の籍が無くて他家に寄食する者について、民籍整理の都合上籍を与え、主家の籍の下に置く事を言う。

この備考欄も面白いので、一応取り上げておきます。
朝鮮の社会組織は昔から数多くの変遷があったけど、要するに両班、常民、奴婢の3階級は常に存在していた。
両班は色んな理由から上級の班を占め、普通人民とは異なり、生まれながらにして官職を得、納税の義務が無い等の特権を有していた。
常民とは、農業、商業、工業、白丁を言い、白丁は常民の最下級に位置する賤民、僧尼、伶人などを言う、と。
この伶人は、楽人とか役者とかの意味で良いのかな?

で、奴婢は人間として生まれたものの、社会上は人として対等の取扱いを受けず、恰も一つの物件のように見なされ、売買、交換、譲与されて主家のもとで使役され、何の人格も認められない者だった。
従って、このような奴婢やそれに近い寄食者は、普通の人と同等な社会上の権利・義務の主体となれる能力が無い者と見なされ、独立の民籍を持っていなかったため、今回特にそれに独立籍を与えることにしたけど、まだ付籍者として取り扱う事になった。
取扱いの便宜や知識の程度や旧慣を参酌し、その身分・戸口の異動による総ての申告は、その主家の義務とした。
ってことで、付籍者で後日独立の生活をするようになった時には、普通の民籍を編成するべきであることは論を待たない、と。

14号は移居で、本籍を他に移す事。
ただ、家族全部が移る場合を移居というのであり、戸主だけが移ったり、家族の何人かが移っただけであれば、移居とは言わない、と。

15号は改名。
古来男子は、婚姻したときを成人したものとして必ず幼名を改め、特に女性は妻となった後にまだ名を呼ばれる事を無上の恥辱とし、婚姻後に幼名を廃する習慣がある。
民籍法では、男女どちらでも必ず1人に1つの名を付ける主旨ではあるけど、別に強制する力があるわけでもないため、その幼名を改名しない限りは必ず幼名を継続して呼称させ、もし改名したらその申告をさせるという意図がある、と。

で、第2項は第1項の各号について2面以上の所轄に跨るときは、申告義務者の所在地の所轄面長に申告すること。

んー、第1条しか終われなかった・・・。(;´H`)y-~~


今日はここまで。



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