前々回前回に民籍法について解説しましたが、創氏改名にも朝鮮戸籍令への繋がりとして関係してくるかもしれませんので、一応創氏改名の方にもエントリーしておきます。

ってことで、アジア歴史資料センターの『韓国警察報告資料巻の2(レファレンスコード:A05020350400)』の146画像目から160画像目までの、『民籍法の説明 附同執行心得』から、1909年(隆煕3年)3月4日『法律第8号 民籍法』。

民籍法(隆煕3年3月4日 法律第8号)

第1条
左記各号の一に該当する場合に於ては、其事実発生の日より10日以内に、本籍地所轄面長に申告すべし。
但し、事実の発生を知ること能はざるときは、事実を知りたる日より起算す。

1 出生
2 死亡
3 戸主変更
4 婚姻
5 離婚
6 養子
7 罷養
8 分家
9 一家創立
10 入家
11 廃家
12 廃絶家再興
13 附籍
14 移居
15 改名
前項の事実にして2面以上の所轄に渉るときは、申告書各通を作り、申告義務者の所在地所轄面長に之を申告すべし。

第2条
第1条の申告義務者は左の如し。

1.出生、戸主変更、分家、一家創立、廃家、改名及移居の場合は当該戸主
2.養子及罷養の場合は養家の戸主
3.婚姻及離婚の場合は婚家の戸主
4.入家の場合は入家せしめたる戸主
5.附籍の場合は附籍せしめたる戸主
前項の場合に於て、戸主が申告を行ふこと能はざるときは、戸主に代はるべき主宰者、主宰者なきときは家族又は親族、家族又は親族なきときは事実発生の場所又は建物等を管理する者、若は隣家より之を為す可し。

第3条
婚姻、離婚、養子及罷養の申告は、実家の戸主の連署を以て之を為すべし。
但し、連署を得ること能はざるときは、申告書に其旨を附記すべし。

第4条
第2条の申告義務者は、本籍地以外に居住する場合に於ては、其居住地所轄面長に申告することを得。

第5条
民籍に関する申告は、書面を以て之を為すべし。
但し、当分の内口頭を以てするを得。

第6条
第1条の申告を怠る者は、50以下の笞刑又は5円以下の罰金に処す。
詐欺の申告を為したる者は、6ヶ月以下の懲役笞刑又は100円以下の罰金に処す。

第7条
本法に依る申告は、面長なき地に於ては面長に準ずべき者に之を為し、漢城府に於ては所轄警察官署に之を為すべし。

第8条
本法施行に要する規程は、内部大臣之を定む。

附則
本法は、隆煕3年4月1日より之を施行す。
建陽元年勅令第61号戸籍調査規則は、本法施行の日より之を廃止す。
まぁ、解説は前々回前回を見て欲しいと思います。
ええ、手抜きです。(笑)

創氏改名に特に関係ありそうな部分としては、第1条の15号、改名の部分の解説の一文ですね。

殊に女子は妻となりたる後、尚人に名を呼ばるを以て無上の恥辱とし、婚姻の時より幼名を廃するの慣習なり。
良く言われる「朝鮮には女性に名が無い」事について、女性がないがしろにされて名前が無かったというわけではなく、元々、妻となった後にも名前を呼ばれる事を、女性自身が「無上の恥辱」と考える習慣があった、と。
で、この生ぬるい対応は、昨年の9月27日のエントリーで取り上げたように、創氏改名の時も「金氏、韓姓女等の称呼を有する女子の属する家に氏設定せられ、姓を朱抹したる場合、右「氏」、「姓女」等の処置如何。」という質疑に対して、「其の儘と為し置くの外なし。」というように継続されてたりします。(笑)

で、これだけだと新しくエントリーたてる意味も薄いので、民籍法の第8条に定められた、内部大臣が定めるとされている規程と思われる、1909年(隆煕3年)3月20日『内部訓令第39号 民籍法執行心得』を。

第1条
民籍に関する事項を記載する為め、警察署、警察分署及巡査駐在所に民籍簿を備ふ。
民籍法第1条各号の事実発生に依り民籍簿より除きたるものは、面別に編綴して除籍簿とす。

第2条
民籍には、地名及戸番号を付すべし。

第3条
民籍記載の順位は左の如し。
1 戸主
2 戸主の直系尊属
3 戸主の配偶者
4 戸主の直系卑属及其配偶者
5 戸主の傍系親及其配偶者
6 戸主の親族にあらざる者
妾は妻に準ず。

第4条
棄兒発見の場合には、一家創立として取扱ふ可し。
但し、養子として収養せんとする者あるときは、一家創立の上養子の取扱を為し、又扶養者あるときは其附籍として取扱ふべし。

第5条
一家絶滅したる場合は、其旨を記載して除籍すべし。

第6条
附籍者の民籍は、一家族毎に別紙を以て編成し、附籍主民籍の末尾に編綴すべし。
附籍者の民籍には、附籍主の姓名及其附籍なる旨を欄外に記載し置くべし。

第7条
面長は常に部内の民籍異動に注意し、申告を怠る者あるときは之が催告を為すべし。
面長は口頭を以て民籍に関する申告を受けたるときは、口頭申告書に記載すべし。

第8条
面長は民籍法第1条の申告書を取纏め、其月分を翌月15日迄に所轄警察官署に送致すべし。

第9条
警察官署に於て受けたる申告書中、他管に係るものは、所轄警察官署に送致すべし。

第10条
民籍簿は甲号様式、口頭申告書は乙号様式に依り調製すべし。
あれ?
書面で届け出るための様式は?(笑)

で、更に民籍法の趣旨について書かれている部分が面白いというか、それまでの戸籍取扱いの経緯が分かりますので、ついでにテキスト化しておきます。

当国の戸籍取扱に付ては、今を去る427年前李朝第9成世宗康靖王の世に於て、式年なる制を定められたるに始まり、毎3年1回調査編籍したるものにして、爾来413年の間其制を遵守せり。
而て、第26世皇帝建陽元年(今を去る14年前)之を戸籍調査規則と改め、毎年1回新に調査編籍することとなり、其事務は府尹、郡守の主管に属せしも、之が実地調査は主として面長(面長なき地は之に準ずべき者)、洞長等の手に由りたるものなり。
其後光武11年(今を去る3年前)、丸山警務顧問の時代に於て臨時戸口調査を行ひしが、調査期日甚だ遷延したるを以て、諸島嶼竝に江原、咸鏡、平安各道に於ける僻陬の地は、遂に実地の調査を経ずして計上したるにも拘らず、其数実に980万人を称へたり。
然るに、当時内部に於ける調査数は580万人に止まり、其差実に400万人の多きを見る。
戸籍取扱の整頓せざる、戸口統計の杜撰なる、以て之を推知するに足る。
隆煕2年1月内部官制制定に際し、当時の実情に鑑み、身分戸口の整理は警察機関に待つの外なく、之を地方局より移して警務局の主管とせられたり。
爾来当局に於て諸種の研究を為し、民籍制定の必要を認め、今回茲に民籍法の発布を見るに至れり。
凡そ身分戸口の異動に関する現象多様なりと雖も、本法に於ては出生乃至改名に至る15の事項を挙げ、不完全ながらも以て民籍上必要なる諸現象を網羅せんことを期したり。
此等各事項の異動に就ては、人民に申告の義務を負はせたりと雖も、素より之のみに依りて其実蹟を挙げんこと予期すべからず。
而して此陥欠を補ふものは、1に警察官の戸口実査に在り。
殊に民籍法に於ては、本籍者のみを支配し、非本籍者即ち寄留者又は一時の滞留者に付ては、之を警察上の戸口実査に委せられたり。
戸口の実査たる警務施行の必要より、人民異動の事実を確かむるに在りと雖も、此に依りて一面民籍簿の整理を為すの制にして、盖し民籍法施行心得並に戸口実査規則に於て此意を酌まれたる所以なり。
以下、民籍法の逐條に付て、単簡なる説明を為し、以て執務者の参考に資せんとす。
敢えて解説はしません。
ただ、冒頭の「第9成世宗康靖王」は、「第9世成宗康靖王」の間違いと思われます。


ってことで、民籍法と民籍法執行心得についてはお終い。



朝鮮民事令と第11条の第1回改正
朝鮮民事令第11条の第2回改正
朝鮮民事令第11条の第3回改正(一)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(二)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(三)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(四)
朝鮮民事令第11条の第3回改正(五)
朝鮮総督府編『朝鮮の姓』より
朝鮮人の氏名に関する件
高元勳
朝鮮戸籍及寄留例規(一)
朝鮮戸籍及寄留例規(二)
朝鮮戸籍及寄留例規(三)
朝鮮戸籍及寄留例規(四)
朝鮮戸籍及寄留例規(五)
朝鮮戸籍及寄留例規(六)