今回の話は、笞刑に関する整理と言っても、どうってことも無い話。
今後も使うかどうかは不明。
じゃあ止めろよ、と。(笑)

でもサガなのでやっちゃいますが、読み飛ばしたい人は読み飛ばし可。
どうせ大した事は書いてません。(笑)

ってことで、前回の覚書を受けて、様々な法令が出されるんですが、今回の統監府裁判所令もその一つ。
アジア歴史資料センターの『御署名原本・明治四十二年・勅令第二百三十六号・統監府裁判所令制定統監府法務院官制廃止(レファレンスコード:A03020810400)』から。
1909年(明治42年)10月16日『勅令第236号 統監府裁判所令』。

勅令第236号
統監府裁判所令

第1条
統監府裁判所は統監に直属し、韓国に於ける民事刑事の裁判及非訟事件に関する事務を掌る。

第2条
統監府裁判所を分ちて、区裁判所、地方裁判所、控訴院及高等法院とす。
統監府裁判所の設置、廃止及管轄区域は、統監之を定む。
統監府裁判所に統監府判事を置く。
判事は勅任又は奏任とす。

第3条
区裁判所は裁判所構成法に定めたる区裁判所、地方裁判所は同法に定めたる地方裁判所の職務を行ふ。
控訴院は地方裁判所の裁判に対する控訴及抗告、高等法院は地方裁判所又は控訴院の第二審の判決に対する上告及控訴院の裁判に対する抗告に付、裁判を行ふ。
高等法院は前項の外、裁判所構成法に定めたる大審院の特別権限に属する職務及第一審且終審として韓国皇族の犯したる罪にして、禁錮以上又は韓国法規に依り禁錮以上の刑に処すべきものの裁判を行ふ。

第4条
区裁判所は前条第1項の外、韓国人の犯したる罪にして、左の各号の1に該るものの裁判を行ふ。

1 韓国法規に依り一年以下の懲役、禁獄、罰金、笞刑又は拘留の刑に該る罪
2 韓国刑法大全第592条、第595条、第596条、第601条乃至第603条、第616条及第617条の罪
3 前号の罪の贓を分ち又は買得、受寄したる罪
4 韓国刑法大全第644条の罪
前項第1号の罪に付ては、再犯以上として処分すべき場合と雖、区裁判所其の裁判を行ふ。

第5条
統監は地方裁判所の事務の一部を取扱はしむる為、管轄区域内の区裁判所に地方裁判所の支部を設置することを得。
支部の職員は、支部を設置したる区裁判所の職員を以て之に充つ。

第6条
統監は、地方裁判所の管轄区域内の一の区裁判所に属する裁判事務の全部又は一部を、其の地方裁判所の管轄区域内の他の区裁判所をして取扱はしむることを得。

第7条
区裁判所は判事単独にして裁判を為し、地方裁判所及控訴院は3人の判事、高等法院は5人の判事を以て組織したる部に於て合議して裁判を為す。
高等法院の或部に於て上告を審問したる後、従来の判決例に異りたる意見を有するときは、其の部は之を高等法院長に報告し、高等法院長は各部を聯合して更に之を審問し、且其の裁判を為さしむ。
前項の場合に於ては、判事の3分の2以上列席することを要す。

第8条
統監は地方裁判所又は其の支部の判事の1人又は数人に、其の裁判所又は支部の裁判権に属する刑事の予審を為すことを命ず。
高等法院長は、第3条第3項の予審を為すべき各別の場合に付、其の院の判事又は下級裁判所の判事に之を為すことを命ず。

第9条
統監府裁判所に検事局を竝置す。
検事局は統監の管理に属し、韓国に於ける検察事務を掌る。
検事局の管轄区域は、之を並置したる裁判所の管轄区域に同じ。
検事局に統監府検事を置く。
検事は勅任又は奏任とす。
検事は、検察事務に付上官の命令に従ふべし。

第10条
統監府裁判所に書記を置く。
書記は判任とす。
書記は裁判所及検事局に附属す。

第11条
統監府裁判所に通訳官又は通訳生を置く。
通訳官は奏任、通訳生は判任とす。
通訳官及通訳生は、裁判所及検事局に附属す。

第12条
高等法院に高等法院長を置く。
高等法院長は、統監の指揮監督を承け其の院の行政事務を掌理す。

第13条
控訴院に控訴院長を置く。
控訴院長は統監の指揮監督を承け、其の院の行政事務を掌理し、管轄区域内下級裁判所の行政事務を指揮監督す。

第14条
地方裁判所に地方裁判所長を置く。
地方裁判所長は、其の裁判所の行政事務を掌理し、管轄区域内区裁判所の行政事務を指揮監督す。

第15条
区裁判所の判事は、其の裁判所の行政事務を掌理す。
判事2人以上あるときは、上席の判事前項の職務を行ふ。

第16条
高等法院、控訴院及地方裁判所の各部に部長を置く。
部長は各其の長官の命を承け、部の事務を掌る。

第17条
高等法院検事局に高等法院検事長を置く。
高等法院検事長は統監の指揮監督を承け、其の局の事務を掌理し、下級検事局を指揮監督す。

第18条
控訴院検事局に控訴院検事長を置く。
控訴院検事長は其の局の事務を掌理し、管轄区域内下級検事局を指揮監督す。

第19条
地方裁判所検事局に地方裁判所検事正を置く。
地方裁判所検事正は其の局の事務を掌理し、管轄区域内区裁判所検事局を指揮監督す。

第20条
区裁判所の検事は、其の裁判所検事局の事務を掌理す。
検事2人以上あるときは、上席の検事前項の職務を行ふ。

第21条
高等法院及控訴院に書記長を置く。
書記長は奏任とす。
書記長は、院長及検事長の命を承け庶務を掌る。

第22条
書記は上官の指揮を承け庶務に従事す。

第23条
通訳官及通訳生は上官の指揮を承け翻訳及通弁に従事ず。

第24条
統監府裁判所及検事局職員の定員は、各裁判所及検事局を通じて左の如し。

判事   329人
検事   85人
書記長 4人
通訳官 4人
書記   368人
通訳生 187人
第25条
韓国人にして判事又は検事たる者は、民事に在りては原告被告とも韓国人たる場合、刑事に在りては被告人韓国人たる場合に限り其の職務を行ふ。

第26条
区裁判所検事の職務は、統監府警視、統監府警部又は統監府裁判所書記をして之を行はしむることを得。

第27条
統監府裁判所及検事局の事務処理に関する規程は、統監之を定む。


附則

第28条
本令は、明治42年11月1日より之を施行す。
統監府法務院官制は之を廃止す。

第29条
本令施行前、理事庁又は韓国の区裁判所、郡衙若は地方裁判所に於て受理したる訴訟事件及非訟事件は現在の侭、理事庁に係るものに在りては、管轄に関する規定に従ひ相当の区裁判所又は地方裁判所に、韓国の区裁判所又は郡衙に係るものに在りては、其の所在地を管轄する区裁判所に、韓国地方裁判所に係るものに在りては、其の所在地を管轄する地方裁判所に移るものとし、既に為したる裁判は、第一審及第二審の区別に従ひ各其の区裁判所又は地方裁判所之を為したるものと看做す。

第30条
本令施行前、統監府法務院又は韓国の控訴院に於て受理したる訴訟事件及非訟事件は、現在の侭其の所在地を管轄する控訴院に移るものとす。
統監府法務院の既に為したる裁判は高等法院、韓国の控訴院の既に為したる裁判は前項の控訴院之を為したるものと看做す。
本令施行前、韓国の大審院に於て受理したる訴訟事件及非訟事件は、現在の侭高等法院に移るものとし、既に為したる裁判は高等法院之を為したるものと看做す。
李朝~大韓帝国の裁判制度は、2審制。
特別法院ってのがありますが、これは皇(王)族に関する裁判制度で、最高裁とはちょっと違う。
んで、この『統監府裁判所令』で3審制になったわけですな。

第3条に見られる『裁判所構成法』ってのは、勿論日本の1890年(明治23年)『法律第6号 裁判所構成法』の事。

で、第4条が今回のポイントである、韓国人に対してのみ適用される部分。
「韓国法規に依り一年以下の懲役、禁獄、罰金、笞刑又は拘留の刑に該る罪」、「韓国刑法大全第592条、第595条、第596条、第601条乃至第603条、第616条及第617条の罪」、「前号の罪の贓を分ち又は買得、受寄したる罪」、「韓国刑法大全第644条の罪」の4つですね。

刑法大全の第592条は常人が係官の財産を盗んだ場合。
第595条は窃盗。
第596条は、人の墳墓の石物を盗んだ場合。
第601条は、人の栽培物や器物、他人が積み集めておいた柴草や木や石を盗んだ場合。
第602条と第603条は8月17日のエントリーで取り上げましたが、それぞれ公有地の樹木の盗んだり斫ったりした時と、他人の禁養する樹木を斫ったり伐った時。
第616条と第617条は8月18日のエントリーで取り上げた部分で、窃盗と、強盗を企図して窃盗になった場合。
ってことで、第2号は全体として韓国人窃盗犯は区裁判所で取り扱う事になるのかな?

で、第3号は前述の窃盗行為による盗品を分配したり、買ったり、受け取った場合。
最後の第644条は、逸失物を自分のものにした場合。

ま、詳しくやってはみたものの、実は1912年(明治45年)3月の改正で条文が一新されて、笞刑の項目も無くなっちゃうんですけどね。(笑)

後、面白いのは第25条かな?
韓国人判事、韓国人検事は、民事の場合原告も被告も韓国人の場合に。
刑事の場合には被告人が韓国人の場合に限り職務を行う、と。
ま、練習は韓国人で。(笑)


条文のせいで長くなりましたが、今日はここまで。



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~