さて、前回は1909年(明治42年)10月16日『勅令第236号 統監府裁判所令』について取り上げました。
順番的には1909年(明治42年)10月16日『勅令第237号 統監府裁判所司法事務取扱令』が次の勅令になるわけですが、こちらは特に取り上げる部分も無いので、今回は省略。
ということで、次の勅令。

アジア歴史資料センターの『御署名原本・明治四十二年・勅令第二百三十八号・韓国人ニ係ル司法ニ関スル件(レファレンスコード:A03020810600)』から。
1909年(明治42年)10月16日『勅令第238号 韓国人ニ係ル司法ニ関スル件』。

勅令第238号

第1条
統監府裁判所は、本令其の他の法令に特別の規定ある場合を除くの外、韓国人に対しては韓国法規を適用す。

第2条
韓国人と韓国人に非ざる者との間の民事事件に付ては、左の変更を以て日本法規を適用す。
但し、韓国人に対する裁判の執行は、韓国法規に依る。

1 原告又は被告口頭弁論の期日に出頭せざる場合に於ては、裁判所適当なりと思料したるときに限り、申立に依り又は職権を以て闕席判決を為すことを得。
2 民事訴訟法第111条第2項第3項、第210条、第246条乃至第248条、第2編第2章第2節、第428条及第429条の規定は之を適用せず。
第3条
検事又は司法警察官は、統監の許可を受け韓国の親任官又は勅任官を逮捕することを得。
但し、急速を要するときは直に之を逮捕し、報告を為すべし。

第4条
仮出獄に関する規定は、韓国法規に依り処刑せられたる者に亦之を適用す。

附則
本令は明治42年11月1日より之を施行す。
まずは第1条。
韓国人に対しては、特別の規定がある場合を除いて韓国法規を適用、と。
8月23日のエントリーでは、覚書として「第3条 在韓国日本裁判所は、協約又は法令に特別の規定あるものの外、韓国臣民に対しては韓国法規を適用すること。」が記されていましたが、ここで法令上も担保された形になります。

続いて第2条。
韓国人に対する裁判の場合には、第1条のとおり韓国法規によるものの、韓国人と韓国人以外の間の民事事件については、変更点が2点あるものの、日本法規を適用、と。
まずは、原告又は被告が口頭弁論の日に出頭しなかった場合、裁判所が妥当と考えれば欠席判決を出すことができる、と。

もう一つは、民事訴訟法の7つの条文を適用しない事。
具体的に見てみます。

第111条の第2項は、「明かに争はざる事実は、原告若くは被告の他の陳述より之を争はんとする意思が顕はれざるときは自白したるものと看做す。」。
同条第3項は、「不知の陳述は、原告若くは被告の自己の行為に非ず、又、自己の実験したるものにも非ざる事実に限り之を許す。此場合に於て、不知を以て答えたる事実は、争ひたるものと看做す。」。
相手方の主張に対して、第2項が擬制自白で、第3項は否認という事らしい。
韓国人には韓国法規が適用されるわけで、この条項が韓国人以外に何故適用されないのかが分かりませんが・・・。

第210条は、「被告より時機に後れて提出したる防禦の方法は、裁判所が之を許すに於ては訴訟を遅延す可く、且被告は訴訟を遅延せしめんとする故意を以て、又は甚しき怠慢に因り早く之を提出せざりしことの心証を得たるときは、申立に因り之を却下することを得。」。
反訴や抗弁等の防禦の方法に対する却下ができる条項。
外国人が被告の場合という事になりますが、現地人でないから準備に時間がかかる事を考慮に入れて、適用しないのかな?

第246条が、「原告若くは被告、口頭弁論の期日に出頭せざる場合に於ては、出頭したる相手方の申立に因り欠席判決を為す。」。
第247条が、「出頭せざる一方が原告なるときは、裁判所は欠席判決を以て其訴の却下を言渡す可し。」。
第248条が、「出頭せざる一方が被告なるときは、被告が原告の事実上の口頭供述を自白したるものと看做し、原告の請求を正当と為すときは、欠席判決を以て被告の敗訴を言渡し、又其請求を正当と為さざるときは、其訴の却下を言渡す可し。」。
いづれも欠席判決に関する条項なわけですが、これは今回の『韓国人ニ係ル司法ニ関スル件』の第2条第1項で簡略化されているからでしょうね。

第428条は、「控訴人が口頭弁論の期日に出頭せざるときは、出頭したる被控訴人の申立に因り欠席判決を以て、控訴の棄却を言渡す可し。」。
第429条は、「「被控訴人が口頭弁論の期日に出頭せざる場合に於て、出頭したる控訴人より欠席判決の申立を為すときは、第一審裁判の証拠と為りたるものに抵触せざる控訴人の事実上の供述は、被控訴人之を自白したるものと看做し、且第一審裁判所の事実上の確定を補充し、若くは弁駁する為め控訴人の申立てたる適法の証拠調は既に之を為し、及び其結果を得たるものと看做し、欠席判決を為す。」。
これも『韓国人ニ係ル司法ニ関スル件』の第2条第1項で簡略化されていると考えて良いのかなぁ・・・。
控訴の場合だから、違う気がしないでも無い。

兎も角、以上7つの条文は適用しないんですね。

で、第3条は、検事または司法警察官は、統監の許可を受けて韓国の親任官や勅任官を逮捕できる。
但し、緊急の場合にはすぐに逮捕して報告すること、と。
司法権が委任されたとはいえ、韓国官吏に対して執行する場合には、やはり手順が必要なんですねぇ。

最後が第4条。
仮出獄については、韓国法規で処刑された者にも適用する、と。
死んだら仮出獄も糞も無いわけで、ここでの「処刑」は、そのまま刑に処されたの意でしょうね。
つうか、これで韓国人も仮出獄できるようになったのかな?

あれ?
笞刑出てこねぇや。
何で取り上げたんだっけ?(笑)


ってことで、何で取り上げたのか忘れたまま、今日はここまで。



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