ようやくメジャーな法令の登場です。(笑)
犯罪即決令。
笞刑と共に語られ、韓国の教科書なんかでは「彼らには即決処分権がありわが民族に対し思いのままに笞刑を行なった。」とされてるらしい部分ですね。

ってことで、アジア歴史資料センターの『御署名原本・明治四十二年・勅令第二百四十号・韓国ニ於ケル犯罪即決令(レファレンスコード:A03020810800)』から。
1909年(明治42年)10月16日『勅令第240号 韓国ニ於ケル犯罪即決令』。

明治42年勅令第240号
韓国に於ける犯罪即決令

第1条
統監府警視又は統監府警部にして、韓国の警察署長、分署長たる職務を有する者又は其の代理を為す者は、其の警察署又は分署の管轄区域内に於ける左の犯罪を即決することを得。

1 拘留又は科料の刑に処すべき罪
2 韓国法規に依り、笞刑、拘留又は30円以下の罰金の刑に処すべき罪
第2条
即決は、裁判の正式を用いず、被告人の陳述を聴き証憑を取調べ、直に其の言渡を為すべし。
被告人を呼出すの必要なきとき、又は之を呼出すも出頭せざるときは、直に其の言渡書の謄本を本人又は其の住所に送達することを得。

第3条
即決の言渡を受けたる者之に服せざるときは、管轄裁判所に正式の裁判を請求することを得。

第4条
正式の裁判を請求する者は、即決の言渡を為したる官署に申立書を差出すべし。
其の期間は、第2条第1項の場合に於ては、言渡ありたる日より3日、同条第2項の場合に於ては送達ありたる日より5日とす。
前項の期間内に正式の裁判を請求せざるときは、即決の言渡は確定したるものとす。

第5条
前条の申立を受けたる官署は、速に訴訟に関する一切の書類を管轄裁判所検事に送致すべし。

第6条
拘留の言渡を為したる場合に於て必要と認むるときは、第4条に定めたる期間内被告人を留置することを得。
但し、刑期に相当する日数を超ゆることを得ず。
科料又は罰金の言渡を為したるときは、其の金額を仮納せしむべし。
若納めざるときは、第4条に定めたる期間内、被告人を留置することを得。
前項留置の期間は、1円を1日に折算したる日数を超ゆることを得ず。
但し、1円未満の端数は1日に折算す。

第7条
前条第1項の留置期間は拘留の刑期に之を通算し、同条第2項の留置期間は其の折算したる金額を以て、科料又は罰金の金額に算入す。

第8条
留置せられたる者正式の裁判を請求し、呼出状の送達ありたるときは、直に其の留置を解くべし。

附則
本令は、明治42年11月1日より之を施行す。
第1条は、即決権者(って言って良いのか?w)に関する規定。
統監府の警視・警部で韓国の警察署長・分署長の地位にある者、又はその代理者は、その警察署や分署の管轄区域内での以下2点の犯罪について即決できる、と。

で、第1号は拘留、科料の刑に処すべき罪。
第2号が韓国法規で笞刑、拘留、30円以下の罰金の刑に処すべき罪。
上段は単に「拘留、科料」に該当する場合。
下段は、「韓国法規で」ですので、韓国人に対する場合ですね。
つまり、日本人を含む外国人の場合には「拘留・科料」の場合に即決でき、韓国人の場合には「拘留・科料・笞刑・30円以下の罰金」の場合に即決できる、と。

で、韓国法規ってのは基本的に刑法大全になると思われますが、その場合にはどういった犯罪行為が為されたかが分かれば、笞の回数・拘留期間は自動的に決まるわけです。
ま、民籍法のように、上限だけが決められ、刑罰についても選択する必要がある場合は、そこまで簡単ではないですけど。

第2条は、即決は正式な裁判を行わずに、被告人の陳述と証拠を調べて、直接言い渡しを行う。
で、被告人を呼び出す必要のない時や、呼び出したのに出頭しない時には、直接その言渡書の謄本を、本人又はその住所に送る事が出来る、と。

第3条は即決の言い渡しを受けた者が不服の場合、管轄裁判所に正式な裁判を請求できる。
続いての第4条は、正式な裁判を請求する場合には、即決の言い渡しを行った所に申立書を差し出すこと、と。
第2条第1項、つまり日本人や外国人に対する場合には、言い渡しのあった日から3日以内。
第2条第2項、つまり韓国人の場合には、送達のあった日から5日以内。
その請求を行わない場合には、即決の言い渡しが確定したものとする、と。

初日不算入の原則って、この頃からあったのかな?
つうか、条文で「言渡」と「送達」に分けられているわけですが、韓国人の場合には第2条の言渡書が必ず送られたのかなぁ?
請求期限といい、言い渡しといい、これ何て差別?(笑)

で、国会図書館のデジタルアーカイブから朝鮮総督府編『最近朝鮮事情要覧』の290コマ目を見ると、明治44年1月から6月の半年間に、犯罪即決総件数は4,709件であり、有罪が4,513件で無罪が196件。
23件については正式な裁判が請求されており、うち8件が無罪、と。

ってことで、無罪もありますし、正式な裁判への移行もありますが、どのように「彼らには即決処分権がありわが民族に対し思いのままに笞刑を行なった。」のでしょうねぇ?
それとも、無罪や正式な裁判に至ったのは、日本人と外国人だけなんでしょうか?(笑)

第5条は、正式な裁判の請求を受けた官署は、すぐに訴訟に関する総ての書類を管轄裁判所の検事に送ること。

第6条では、拘留の言い渡しをした場合、必要と認めれば3日或いは5日の期間内で被告人を留置できる。
但し、刑期に相当する日数を超過できない。
拘留2日なんて刑がもしあれば、それ以上は留置できないって事で。
いや、当然なんだけど。

第2項は、科料や罰金の言い渡しをした場合には、その金額を仮に収めさせる事。
もし収めなければ、3日或いは5日の期間内で被告人を留置できる。

第3項では、第2項の期間は、科料や罰金の1円を1日に換算した日(端数切り上げ)を超える事が出来ない。
罰金1円という刑なら、1日しか留置できないんですね。

で、第7条では、第6条の第1項の留置期間は拘留の刑期に含め、第2項の留置期間は換算した分の金額を、科料や罰金の金額に算入する。
留置期間も刑の執行に入れるんですね。

最後の第8条では、留置されている者が正式の裁判を請求して、呼出状が送達されてきたら、直ぐに留置を解くこと、と。

つうか、「彼らには即決処分権がありわが民族に対し思いのままに笞刑を行なった。」なんて言ってるんで、てっきり道端でいきなり「生意気なやつだっ!お前は有罪で笞刑だっ!喰らえっ!(ビシッ!ビシッ!)」って感じなのかと思ったらそういうわけでもないようで。(笑)

どちらかというと、イメージ的には現代の即決裁判手続きに近い。
いや、当時でも違刑罪即決例(明治18年布告第31号)っていう、そっくりの規定が日本にもあったんですけどね。

まぁ、司法が介入していないという重大な欠点はあるわけですが、それを出来るような司法制度や施設があれば、そもそも司法・監獄事務の委託はされてませんし、治外法権の撤廃で悩まずに済むわけで。(笑)

イメージ先行って怖いですね。( ´H`)y-~~


長くなりましたが、今日はここまで。



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~