さて、1909年(明治42年)の司法及び監獄事務の委託を受けて制定された司法関連の法令は、前回までのもの以外は官制や給与に関するものなので省略。
ってことで、今回は併合時の法令に飛んで、1911年(明治44年)1月1日『制令第10号 犯罪即決例』について。

え、前回やったじゃん、という声が聞こえてきそうですが、前回のは正確には『明治42年勅令第240号 韓国ニ於ケル犯罪即決令』。
今回のは、『明治43年制令第10号 犯罪即決例』という事になります。

さて、犯罪即決例については、1912年(明治45年)制令第12号での改正後の条文しかアジ歴で見つける事ができず、アジア歴史資料センターの『犯罪即決例、民事争訟調停ニ関スル件及弁護士規則ヲ定ム(レファレンスコード:A01200064000)』の16画像目からでお茶を濁そうと思ってたんですが、今回連載する切っ掛けになった韓国人ID:nominallyが、犯罪即決例の載った1910(明治43年)12月15日付の朝鮮総督府官報第90号をくれたので、それを元に進めていきます。

犯罪即決例(クリックで拡大)

分割しながら見ていきます。

制令第10号
犯罪即決例

第1条
警察署長又は其の職務を取扱ふ者は、其の管轄区域内に於ける左の犯罪を即決することを得。

1 拘留、笞刑又は科料の刑に該るべき罪
2 3月以下の懲役、又は100円以下の罰金、若は科料の刑に処すべき賭博の罪、及拘留又は科料の刑に処すべき刑法第208条の罪
3 区裁判所の裁判権に属する事件にして、3月以下の懲役の刑に処すべき、刑法大全第5編第9章第17節及び、第20節の罪。
4 区裁判所の裁判権に属する事件にして、3月以下の懲役、禁錮、禁獄若は拘留、笞刑又は100円以下の罰金若は科料の刑に処すべき行政法規違反の罪
前回の1909年(明治42年)10月16日『勅令第240号 韓国ニ於ケル犯罪即決令』と比較して、変更があった点について触れていきたいと思います。

まずは第1条ですが、統監府から総督府に変わったことによる語句整理が行われています。
で、第1号については、「拘留又は科料」だったものが「拘留、笞刑又は科料」と、笞刑が以前の第2項から移ってきました。
勿論「笞刑」に該当する量刑を受けるのは韓国人だけですので、実質的には区分されてるわけです。
ってことで、日本人を含む外国人の場合には「拘留・科料」、朝鮮人の場合には「拘留・笞刑・科料」の罪の時に、即決できるという事になりました。

んで、第2号に来たのが、3ヶ月以下の懲役・100円以下の罰金・科料の刑に処すべき賭博罪と、拘留や科料に処すべき暴行罪ということになります。
ちなみに、刑法第208条は以下のとおり。

第208条
暴行を加へたる者、人を傷害するに至らざるときは、1年以下の懲役若くは50円以下の罰金又は拘留若くは科料に処す。
前項の罪は、告訴を待て之を論ず。
量刑こそ違うものの、現在の刑法でも第208条は暴行罪になっています。
第2項は親告罪の規定ですね。
で、そのうちの「又は拘留若くは科料」程度の軽いもの、と。
これは、日本人を含む外国人も朝鮮人も変わらず適用されるものと思われます。

第3号と第4号の「区裁判所の裁判権」とは、統監府裁判所令の第3条と第4条の事。
で、第3号は3年以下の懲役に処すべき、刑法大全第5編第9章第17節と第20節の罪。
第17節は「闘殴傷人律」で第511条から第518条、第20節は「殴傷親属律」で第526条から第532条になります。
8月16日のエントリー8月17日のエントリー辺りの話ですね。
感覚的には、刑法大全上の一般的傷害罪と考えて良さそうです。
勿論、刑法大全の適用を受けるのは朝鮮人だけですので、朝鮮人専用の条文という事になります。

第4号は、3月以下の懲役・禁錮・禁獄・拘留・笞刑、100円以下の罰金・科料の刑に処すべき行政法規違反。
行政法規違反なので、民籍法の違反なんかはこちらに含まれるのかな?
これは、当該行政法規の内容次第で、日本人を含む外国人にも適用されるのか、朝鮮人だけに適用されるのかが変わってくると思われます。
つうか、懲役6ヶ月とかでなければ、大概即決できそう。(笑)

後は、罰金刑が30円以下から100円以下になってるってとこが変更点ですかね?
即決できる罰金刑の上限を引きあげるとは、悪辣な日帝ですね。(笑)


ってことで、ちょっと早めですが今日はここまで。
っつうか、また第1条だけで終わった・・・。_| ̄|○



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~