法律関係から逃れて、ネタとして併合後の刑法大全に基づく笞刑の適用事例を見ていく予定だったんですが、何故か話は法令に流れたり・・・。
( ´H`)y-~~

ま、あまり気にせず、今日もアジア歴史資料センターの『密大日記 明治44年/1、拷訊事件処分に関する件報告(レファレンスコード:C03023023500)』から、1911年(明治44年)8月19日付『朝憲密常第44号』の続きを。

法発第254号 平憲警親受111号
明治44年8月10日
朝鮮駐箚軍特別陸軍軍法会議
理事 川村 龍雄

平壌憲兵隊御中

左記之者、別紙謄本の通処分相成候条、此段及通報候也。
憲兵補助員 呉善柱
金基珍
金■俊
平安南道成川郡下部面
下里四統十戸 戸主
平壌憲兵隊成川分隊
憲兵補助員監督 呉善柱 当40年

右之者に対する涜職被告事件遂審理処、被告は明治44年2月5、6日頃、成川憲兵分隊に於て留置中の強盗及貨幣偽造未遂嫌疑者、成川郡龍渕面中湯里六統七戸、林俊河を取調の際、同隊憲兵補助員数名を指揮し、同人の両足脛部上下2箇所を帯革及捕縄を以て緊縛し、其の間に棒を挿入し■■廻し、或は軍刀の鞘を以て左手背部及び右大腿の上部外側を打撲し、為に各其の局部に創傷を負はしめたり。
右の事実は、所属分隊長の被告事件具申書類並に、理事の被告人事実参考人の各訊問調書等に徴し、証憑充分なり。
之れを法律に照らすに、被告の行為は刑法大全第512条本文に依り、同第511条第2号後段に従ひ処断すべきものとす。
仍て判決左の如し。

被告を笞60に処す。

明治44年8月10日
朝鮮駐箚軍特別陸軍軍法会議
判士長以下官氏名略す

右同日依原本謄寫す
録事 一野坪茂
有罪判決を受けた3人のうちの1人、呉善柱に対する軍法会議の判決文です。
強盗と貨幣偽造未遂の嫌疑者、林俊河に対して、両足脛部の上下2箇所を帯革と縄で緊縛し、その間に棒を差し込んでねじる。
・・・。
これは、噂の「チュリ」ってやつではないだろうか?(笑)


(イメージ図)

他には軍刀の鞘で左手の甲や右大腿の上部外側を打撲して傷を負わせた、と。
で、これは所属分隊長から出された被告事件具申書類や、被告人・事実参考人の訊問調書などにより証拠十分。
ってことで、刑法大全の第512条「2人以上が謀りて共殴したる者は、第511条諸項に依りて下断す。(以下略)」に基づいて、8月16日のエントリーで見た第511条の第2号で、道具を使って人を傷つけたら笞60回って事で刑が決定。

拷問しても暴行罪とか傷害罪なんかと同じ取扱いかぁ・・・。
つうか、2人以上?
何で?

んじゃ、続き。

平安南道成川郡上部面
処仁里五統三戸 戸主
平壌憲兵隊成川分隊
憲兵補助員 金基珍 当30年

平安南道成川郡下部面
校東里二統三戸 戸主
平壌憲兵隊成川分隊
憲兵補助員 金■俊 当26年

右被告両名に対する涜職被告事件遂審理処、被告両名は明治44年1月25日より同隊陸軍憲兵上等兵福永新蔵に従ひ、成川郡龍渕面に夜間警邏の為出張し、仝月30日仝面中陽里に於て、強盗嫌疑者として張秉律、金亨仲、金昌洙、韓炳直及び李文憲の5名を逮捕し、仝郡三岐面三徳里岐倉金昇孝方に宿泊中同上等兵の命を受け、同夜及び翌31日の両日に亘り附近の金俊學方に於て強盗の事実並連累者の有無等に関し張秉律外4名を取調たるも、容易に被告等の予期せる事実を申立てざるより、金基珍は首として、金■俊は従として、共に帯革又は捕縄を以て各嫌疑者の脛部上下2箇所を緊縛し、其の間に2本の割木を挿入し、■■廻して拷責し、各其の前脛部に創傷を負はしめたり。
以上の事実は、被告の供述、所属分隊長の被告事件具申書類、平壌地方裁判所検事局に於ける検事の各関係人訊問調書並に、理事の被告人、証人、事実参考人の各訊問調書等に徴し証拠十分なり。
之を法律に照すに、被告両名が共謀して張秉律等5名を拷責し創傷を負はしめたる行為は、孰れも刑法大全第512条本文に依り、被告金基珍は首なるを以て同第211条第2号後段に該当し、被告金■俊は同般の刑に1等を減じ、而して5罪倶発なるを以て同第129条に依り、各其の1に従て処断すべき者とす。
仍て判決左の如し。

被告金基珍を笞60に処す。
被告金■俊を笞50に処す。

明治44年8月10日
朝鮮駐箚軍特別陸軍軍法会議
判士長以下官氏名略す

右同日依原本謄寫す
録事 一野坪茂
史料中、「第211条第2号後段」は「第511条第2号後段」の誤り。
あと、刑法大全の第129条は、「従犯は首犯の律に1等を減ず」。
回りくどく書いてますが、要するに金基珍の笞60から1等を減じて笞50ってことですね。
基本的に、事件となった行為と、処罰に関する刑法大全の項目は、先ほどの呉善柱と同じ。

1911年(明治44年)1月30日に強盗嫌疑者として張秉律、金亨仲、金昌洙、韓炳直、李文憲の5名を逮捕。
憲兵上等兵福永新蔵の命令で取調を行ったけど、容易に金基珍等の予期する事実を言わないので拷問。
福永新蔵の関与は無かったんだろうか?

つうか、この強盗嫌疑者として逮捕された金昌洙って、金九じゃないよね?(笑)

さて、以降の憲兵上等兵福田鹿太郎、吉見森蔵、憲兵補助員金相翊、張九洪の4名については、前回も見たとおり免訴という事で、省略します。
つうか、非常に怪しい気はするんですけどね。(笑)

兎も角、容疑者を拷問或いは拷問した疑いで、裁判にかけられる憲兵。
そして有罪になった者が朝鮮人なので、刑法大全に基づいて笞刑となり、その後約1ヶ月分の給料程度の金額で収贖。
分隊長は軽謹慎5日。
隊長は進退伺いの上戒告処分という、1911年に刑法大全を使用して笞刑が適用された事例、という以上に面白い史料だと思ったわけなんですが、如何でしたでしょうか。(笑)

そういえば、調子ぶっこいてたら、お父さんが憲兵伍長だった辛基南とか居たよね。( ´H`)y-~~




ってことで、今日はここまで。



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(1)~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(2)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(1)~