はい、今回からは再び大物です。
『朝鮮刑事令』。
『刑法大全』の代わりとなるものですね。
笞刑について述べるには、最後の附則以下を取り上げるだけで良い気もしますが、重要な法令ですので一応全文見てみたいと思います。

さて、『犯罪即決例』については運良く朝鮮総督府官報が入手できましたが、今回はそうもいかず。
アジア歴史資料センターの『公文類聚・第三十六編・明治四十五年~大正元年・第十六巻・衛生・人類・獣畜、願訴、司法・裁判所~刑事/朝鮮刑事令ヲ定ム(レファレンスコード:A01200089200)』と、国会図書館の近代デジタルアーカイブから、朝鮮総督府の出した『明治四十五年行政整理顛末書』を見ながら話を進めていきたいと思います。

んでは早速、1912年(明治45年・大正元年)『制令第11号 朝鮮刑事令』。
長いので、分割しながら。

制令第11号
朝鮮刑事令

第1条
刑事に関する事項は、本令其の他の法令に特別の規定ある場合を除くの外、左の法律に依る。

1 刑法
2 刑法施行法
3 爆発物取締規則
4 明治二十二年法律第三十四号
5 通貨及証券模造取締法
6 明治三十八年法律第六十六号
7 印紙犯罪処罰法
8 明治二十三年法律第百一号
9 海底電信線保護万国聯合条約罰則
10 刑事訴訟法
11 普通治罪法陸軍治罪法海軍治罪法交渉ノ件処分法
12 外国裁判所ノ嘱託ニ因ル共助法
半島での刑事に関するものは、朝鮮刑事令で特に定めている規定以外は左の法律によるとして、12の法律が挙げられています。

4番目の「明治二十二年法律第三十四号」ってのは『決闘罪に関する件(レファレンスコード:A03020033300)』。
6番目の「明治三十八年法律第六十六号」は、『外国において流通する貨幣紙幣銀行券証券偽造変造及び模造に関する件(レファレンスコード:A03020621200)』。
5番目の『通貨及証券模造取締法』は国内で、6番目は外国の物ってことでしょうね。
で、8番目の「明治二十三年法律第百一号」は、『有罪破産者処断方(レファレンスコード:A03020059200)』。
「詐欺破産」や「過怠破産」の罪についての法律ということになります。

ま、基本的には刑法と刑事訴訟法がメインになるんでしょう。

第2条
前条の法律中、大審院の職務は高等法院、大審院長の職務は高等法院長、検事総長の職務は高等法院検事長、検事長の職務は覆審法院検事長、地方裁判所検事及区裁判所検事の職務は地方法院検事之を行ふ。

第3条
刑法第75条及第76条並刑事訴訟法第28条第3項及第130条第1項の規定は、之を王族に準用す。
第2条は、刑法から始まる各法律中、裁判所関係の読み替えに関する規定。
第3条は、「皇族」から「王族」、つまり李王家への読み替え規定。
ちなみに、刑法第75条は「皇族に対し危害を加へたる者は死刑に処し、危害を加へんとしたる者は無期懲役に処す。」。
刑法第76条は、「皇族に対し不敬の行為ありたる者は、2月以上4年以下の懲役に処す。」。
刑事訴訟法第28条第3項は、「裁判所構成法第50条第2号に記載したる皇族の犯罪に付ては、其正犯、従犯は身分の如何を問はず、大審院に於て管轄す。」。
刑事訴訟法第130条第1項は、「皇族証人となるときは、予審判事其所在に就き訊問を為す可し。」となっております。

第4条
朝鮮総督府警務総長は、司法警察官として犯罪を捜査するに付、地方法院検事と同一の職権を有す。

第5条
左に記載したる官吏は、検事の補佐として其の指揮を受け、司法警察官として犯罪を捜査すべし。

1 朝鮮総督府警務部長
2 朝鮮総督府警視、警部
3 憲兵将校、准士官、下士
前項の司法警察官は、検事の職務上発したる命令に従ふ。
第4条の警務総長は、9月4日のエントリーで見たように、『警察官署官制』で韓国駐箚憲兵の長が充てられる事になっていましたが、職権的には地方法院検事と同一、と。

続く第5条では、警務部長、警視、警部、憲兵将校、憲兵准士官、憲兵下士を司法警察官に。
勿論、検事の発する指揮命令を受ける、と。

第6条
裁判所は、被告人が其の裁判所の管轄区域内に在らざるときは、決定を以て事件を被告人の所在地を管轄する同等の裁判所に移送することを得。

第7条
官吏、公吏の作りたる書類にして形式に瑕疵あるものは、当該官吏、公吏之を補正することを得。
前項の補正を為したるときは、其の年月日、場所及補正の事項を附記して署名捺印すべし。

第8条
書類の送達に付ては、本令に規定あるものの外朝鮮民事令を準用す。

第9条
訴訟関係人より期日に出頭すべき受書を差出さしめ、又は口頭を以て次回の出頭を命じたるときは、召喚状又は呼出状を送達したると同一の効力を生ず。
但し、口頭を以て出頭を命じたる場合に於ては、其の旨を調書又は公判始末書に記載すべし。

第10条
刑事訴訟法に依り市町村長の立会を要する場合に於ては、2人以上の相当の立会人あるを以て足る。
この辺は、裁判に先立つ手続き関係かな?

第6条は、被告人がその裁判所の管轄区域内に居ない時は、被告人の所在地を管轄する同等の裁判所に移管できる規定。
在宅起訴とかあったのかなぁ?

第7条は、書類上の瑕疵について補正できる規定。
補正したら補正した年月日と場所、補正内容を附記して署名捺印しとけ、と。

第8条は書類の送達についてで、刑事令で規定されているもの以外は朝鮮民事令を準用。
朝鮮民事令の書類の送達の規定については、第22条~第25条の辺りがメインで、後はそれぞれ散見される感じ。

第9条は、口頭による出頭命令について。
召喚状や呼出状を送達したのと同一の効力だけど、その場合には口頭で出頭命令したことを、調書か公判始末書に書いておけ、と。

第10条の刑事訴訟法で市町村長の立ち会いが必要な場合には、2人以上の相当の立会人が居れば良い、と。
当時の刑事訴訟法で、市町村長の立ち会いが必要なのは・・・探すの面倒なので省略。(笑)
兎も角、市町村長など居ませんので、代わりに2人以上の相当の立会人が居れば良いことにしたんですね。


オチがつかないないけど、今日はこれまで。(笑)



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(1)~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(2)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(1)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(2)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(1)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(2)~