朝鮮刑事令の3回目です。
単なる法令紹介に堕してるので、さっさと先に進みたいと思います。

アジア歴史資料センターの『公文類聚・第三十六編・明治四十五年~大正元年・第十六巻・衛生・人類・獣畜、願訴、司法・裁判所~刑事/朝鮮刑事令ヲ定ム(レファレンスコード:A01200089200)』と、国会図書館の近代デジタルアーカイブから、朝鮮総督府の出した『明治四十五年行政整理顛末書』を見ながら、1912年(明治45年・大正元年)『制令第11号 朝鮮刑事令』の続き。

第21条
刑事訴訟法第92条の規定は、第12条及前2条の場合に之を準用す。

第22条
刑事訴訟法第130条第2項の規定は、朝鮮総督に之を準用す。
刑事訴訟法第92条は、第1項が「予審判事臨検、捜索、物件差押又は被告人、証人の訊問を為すには、裁判所書記の立会を必要とす。書記は調書を作り予審判事と共に署名捺印す可し。」。
第2項が、「裁判所外に於て、急遽の際書記の立会を得ること能はざるときは、立会人2名あるを要す。但、監獄署に就て被告人を訊問するときは、其監獄署の官吏1名をして立会はしむ可し。」。
第3項が、「前項の場合に於ては、予審判事自ら調書を作り之を読聞かせ、立会人と共に署名捺印す可し。書記又は立会人なくして為したる処分は、其効なかる可し。」。

これを、前回の第12条第2項と第19条、第20条の場合、つまり司法警察官、受命判事、受託判事、裁判所が行う場合にも準用する、と。

刑事訴訟法第130条第2項は、「各大臣に付ては、其官庁の所在地に於て之を訊問す。若し所在地外に滞在するときは、其現在地に於て之を訊問す可し。」。
9月10日のエントリーでは、皇族を王族と読み替えて「其所在に就き訊問を為す可し」という規定がありましたが、それの大臣版。
それを朝鮮総督にも準用する、と。

第23条
通訳官又は通訳生を通事と為す場合に於ては、宣誓を為さしむることを要せず。

第24条
刑事訴訟法第179条の2第2項の規定に依り弁護人を選任すべき場合に於ては、弁護士に非ざる者を以て之に充つることを得。

第25条
刑事訴訟法第237条、第241条、第264条及第276条の規定は之を適用せず。
第23条は、通訳官や通訳生が通訳する場合には、宣誓は不要、と。
まぁ、どちらも公職ですしね。

第24条での刑事訴訟法第179条の2第2項は、「前項の弁護人は、裁判長の職権を以て其裁判所所属の弁護士中より専任す可し。但、弁護士1名をして被告人数名の弁護を為さしむることを得。」。
条件は違うけど、現代の国選弁護人みたいな制度の話。
で、その場合には弁護士ではない者でも良いよ、と。

恐らく、弁護士の数自体がまだ少ない上に、裁判所に所属する弁護士ってのが更に少ないため、弁護士では無い者でも良いということにせざるを得なかったんじゃないかなぁ。

第25条。
刑事訴訟法第237条は、第1項が「重罪事件に付て、開廷前裁判長又は受命判事は、裁判所書記の立会に依り一応被告人を訊問し、且弁護人を専任したるや否やを問ふべし。」。
第2項が「若し弁護人を選任せざるときは、裁判長の職権を以て其裁判所所属の弁護士中より之を選任す可し。被告人及び弁護士に異議なきときは、弁護士1名をして被告人数名の弁護を為さしむることを得。」。
第3項が、「書記は本条の訊問に付き、特に調書を作る可し。」。

第241条は、第1項が「裁判所に於て軽罪として受理したる事件を重罪なりとするときは、其事件を予審判事に送付する決定を為す可し。検事の請求あるとき亦同じ。」。
第2項は「被告事件予審を経たるときは、公判を止め、受命判事をして其事件の取調を為し、報告を為さしむべし。。」
第3項は、「受命判事は、予審判事に属する処分を為すことを得。」。

第264条は、第1項が「公訴院に於て、地方裁判所が軽罪なりと判決したる事件を重罪なりとするとき、又は其事件を重罪なりとして主たる公訴院又は附帯公訴ありたるときは、其公判を止め、受命判事をして其事件の取調を為し、報告を為さしむべし。。」
第2項は「受命判事は、予審判事に属する処分を為すことを得。」。
第3項は、「本条の場合に於ては、被告人弁護人を選任せざるときは、第237条第2項の規定に従ひ、裁判長の職権を以て弁護人を選任す可し。」。

第276条が、「重罪の刑の言渡を受けたる者上告を為し、又は検事より重罪の刑に該る可きものとして上告を為したる場合に於て、被告人自ら弁護士を選任せざるときは、上告裁判所長は其裁判所在地の弁護士中より之を選任す可し。」。

刑事訴訟法の第237条と第276条の適用除外は、やはり弁護人の少なさによるものだろうと思われるわけですが、すべて先ほどの第24条で対応するんでしょうか?
刑事訴訟法の第241条と第264の適用除外は、前回の第17条で総てカバーするのかな?
んー、実際どのような運用がとられていたのかは、具体事例見ていかないと分からないかもなぁ。

第26条
1年以下の懲役、禁錮又は300円以下の罰金を言渡したる第一審の判決に付ては、証拠に関する理由を省略することを得。
前項の場合に於て控訴の申立ありたるときは、判決裁判所は理由書を作成して之を控訴裁判所に送付すべし。

第27条
刑事訴訟法第245条の規定は、故障の申立及再審の訴に之を準用す。

第28条
弁護人は上訴を為すことを得ず。

第29条
故障の申立又は上訴を為すことを得べき者は、其の権利を抛棄することを得。
第26条では、1年以下の懲役・禁錮又は300円以下の罰金の言渡をした第一審の判決については、証拠に関する理由を省略できる。
その場合、控訴の申し立てがあったときは、判決した裁判所は別途理由書を作って、控訴裁判所に送れ、と。
わざわざ解説しなくても、条文そのままだな・・・。(笑)

第27条で言う刑事訴訟法第245条は、「勾留を受けたる被告人上訴を為すには、其申立書を監獄署長に差出し、署長は之を其裁判所に送致す可し。」。
故障申し立ては、欠席判決に対する不服申し立てかな?
その故障の申立や再審請求に、刑事訴訟法第245条を準用する、と。

第28条は、弁護人は上訴出来ない。
これはそのまま、被告人じゃないと上訴出来ないって事かな?
それとも、弁護人の名義では出来ないって事かな?
翌年の105人事件の公判記録なんかを見ると、梁起鐸の上告趣意書なんかは、一昨年の10月22日のエントリーで出てきた弁護士高橋章之助名義で出てたりするんで、申立書の名義だけの話じゃないかとは思うんですけどね。

第29条は、故障の申し立てや上訴が出来る者は、その権利を抛棄できる、と。
これ、当時の刑事訴訟法には無いのかな?


法知識が無いので、あまりツッコむことも出来ないまま、今日はこれまで。



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