今週いっぱいをかけてお送りしてきた『朝鮮刑事令』も、今日でお終い。
いよいよ本筋の『朝鮮笞刑令』が近づいてきました。

ってことで、今日もさっさと先に進みたいと思います。
アジア歴史資料センターの『公文類聚・第三十六編・明治四十五年~大正元年・第十六巻・衛生・人類・獣畜、願訴、司法・裁判所~刑事/朝鮮刑事令ヲ定ム(レファレンスコード:A01200089200)』と、国会図書館の近代デジタルアーカイブから、朝鮮総督府の出した『明治四十五年行政整理顛末書』を見ながら、1912年(明治45年・大正元年)『制令第11号 朝鮮刑事令』。

第39条
朝鮮民事令第3条、第4条、第6条、第16条乃至第18条及第32条の規定は、刑事に之を準用す。
但し第3条、第4条、第6条、第16条及第18条中第1条とあるは本令第1条に該当す。
まずは、朝鮮民事令の各規定を。
第3条が、「第1条の法律中、主務官庁に属する職務は民事訴訟法第152条の場合を除くの外朝鮮総督、控訴院長に属する職務は覆審法院長、地方裁判所長に属する職務は地方法院長、市町村長に属する職務は府尹又は郡守之を行ふ。」。
第4条は、第1項が「第1条の法律中、公証人及執達吏に属する職務は裁判所書記之を行ふ。」。
第2項が「裁判所及検事局の長は、警察官吏其の他適当と認むる者をして執達吏の職務を行はしむることを得。」。
第6条が、「執達吏の職務を行ふ者は、第1条の法律の適用に付ては之を執達吏と看做す。但し、国庫より俸給又は給料を受くる者が執達吏の職務を行ふ場合に於ては、受くべき手数料及旅費は国庫の収入とす。」。
第16条は、第1項が「地方法院に於て合議して裁判を為すべき事件に付ては、第1条の法律中其の事件に付定めたる地方裁判所の裁判手続に関する規定を準用し、其の他の事件に付ては区裁判所の裁判手続に関する規定及非訟事件手続法中地方裁判所に関する規定を準用す。」。
第2項は、「前項の外、区裁判所又は地方裁判所に関する規定は之を地方法院に、区裁判所判事に関する規定は之を地方法院判事に準用す。」。
第18条は、「第1条の法律の適用に付管轄裁判所の指定を必要とする場合に於ては、関係ある各裁判所を併せて管轄する直近上級の裁判所指定の裁判を為す。」。
第32条が、「裁判所の開廷に関しては、裁判所構成法第104条乃至第113条の規定に依る。」。

朝鮮刑事令の第2条は検事等の主に検察側の読み替え規定でしたが、民事令の第3条は裁判所等をメインにした読み替え規定。
民事令の第4条と第6条は、公証人や執達吏の読み替え。
民事令の第16条と第18条、第32条は、裁判所に関する読み替え規定ですね。
民事令中の他法律の参照は、面倒臭いので省略。(笑)
これを、朝鮮刑事令についても準用する、と。

さて、次からいよいよ附則に入ります。

附則

第40条
本令は明治45年4月1日より之を施行す。

第41条
左の法令は之を廃止す。
1 刑法大全
2 鉄道事項犯罪人処断例
3 刑事裁判費用規則
刑法大全第473条、第477条、第478条、第498条第1号、第516条、第536条及第593条の罪、並に其の未遂犯に関する規定は当分の内本令施行前と同一の効力を有す。
但し減等に付ては刑法第68条の例に依る。
刑法大全第2条の規定は、前項の規定の適用に付仍其の効力を有す。
朝鮮刑事令の発布に伴って、廃止された法令が3つ。
1905年(明治38年・光武9年)2月29日『法律第2号 刑法』、1900年(明治33年・光武4年)1月23日『法律第3号 鐵道事項犯罪人處斷例』、1908年(明治41年・隆熙2年)10月8日『法律第24号 刑事裁判費用規則』が廃止。

で、第2項でその廃止される事になる刑法大全のうち、生き残る条文について書かれています。
第473条が、「人を謀殺したる者は、造意したる者と下手人または助力したる者は、并せて絞に処するも、随行のみにて下手または助力無き者は、一等を減ず。」。
第477条が、「人を故殺したる者は、首従分たず絞に処す。」。
第478条は、「強盗または窃盗を行ふ時に、人を殺したる者は首従を不分并せて絞に処す。」。
第498条第1号は、「本章第一節、第二節、第三節、第四節の所為を以て祖父母父母又は袒免以上親尊長又は夫、夫の祖父母父母袒免以上親尊長を殺したる者は絞。」。
第516条は、「強盗又は窃盗を行ふ時に人を傷けたる者は、首従不分并せて絞に処す。」。
第536条が、「強盗又は窃盗を行ふ時に婦女を刧姦したる者は、既成未成を論ぜず絞に処す。」。
第593条は、いっぱいある・・・。
財産を刧取する計を以て左開所為を犯したる者は、首従を不分絞に処するも、已行して未得財なる者は懲役終身に処す。
1 一人或二人以上が昼夜を不分僻静処或大道上又は人家に突入して、拳脚桿棒または兵器を使用したる者
2 人家に潜入して、揮剣或橫創し、威嚇したる者
3 徒党を嘯聚して兵仗を持ち、閭巷或市井に攔入したる者
4 薬を以て人の精神を昏迷せしめたる者
5 人家に神主を藏匿したる者
6 墳塚を発掘するか、山殯を開きて屍柩を藏匿したる者
7 幼兒を誘引或劫取して藏匿したる者
8 発塚或破殯すべしと聲言し、掛榜或投書して恐嚇したる者
9 山殯を毀損し、衣衾を剥取したる者
」。
要するに、殺人や強盗傷害等のそれまで絞首刑に該当するような凶悪犯罪については、刑法大全の方を適用しますよ、と。
但し減刑の規定は、刑法第68条による。
この刑法第68条も長くて・・・。
法律に依り刑を軽減す可き1個又は数個の原由あるときは、左の例に依る。
1 死刑を減軽す可きときは、無期又は10年以上の懲役若くは禁錮とす
2 無期の懲役又は禁錮を減軽す可きときは、7年以上の有期の懲役又は禁錮とす
3 有期の懲役又は禁錮を減軽す可きときは、其刑期の2分の1を軽減す
4 罰金を減軽す可きときは、其金額の2分の1を軽減す
5 拘留を減軽す可きときは、其長期の2分の1を軽減す
4 科料を減軽す可きときは、其多額の2分の1を軽減す
」。
で、刑法大全第2条「犯罪したる者が本法律に正條無き境遇には、引律比附して処断すると雖も、死刑には比附するを得ず。」は、先ほどの刑法大全の適用事例の場合にのみ効力を有する、と。

んじゃ、ようやく続きへ。

第42条
本令施行後仍効力を有する旧韓国法規の刑は、左の例に従ひ本令の刑名に変更す。
但し、刑の期間又は金額は此の限に在らず。

旧韓国法規の刑 本令の刑
死刑 死刑
終身役刑 無期懲役
終身流刑 無期禁錮
十五年以下の役刑 有期懲役
十五年以下の流刑又は禁獄 有期禁錮
罰金 罰金
拘留 拘留
科料 科料
没入 没収
笞刑 20日以下の拘留又は科料

第43条
本令施行前旧韓国法規の刑に処せられたる者は、前条の例に照し之を本令の刑に処せられたる者と看做す。
前項の場合に於ては、笞刑に処せられたる者に付ては笞5を以て拘留1日に換ふ。
第42条は、朝鮮刑事令以後も効力がある旧韓国法規の刑罰の読み替え規定。
で、笞刑は20日以下の拘留又は科料に読み替えられます。


次の第43条は、朝鮮刑事令施行前後の刑罰に関するみなし規定。
第2項では、特に執行形態が全く変わってしまう笞刑について、笞5回で拘留1日とみなしています。
これで、未執行の笞100回も拘留20日となり、第42条の読み替えにも適合するわけですが・・・。
同日公布の朝鮮笞刑令では、1日を笞1回としていますので、この公布時の拘留20日を情状で笞刑に出来た場合、笞100回が法令の読み替え規定に従っただけで笞20回になるという不思議な現象が。(笑)

第44条
旧韓国法規に依り許したる仮放は、之を仮出獄と看做す。

第45条
本令施行前に罪を犯し、未だ確定判決を経ざる者に付ては、本令に依り之を処断す。

第46条
本令施行前既に為したる上告は、従前の手続に依り之を完結す。

第47条
朝鮮民事令第79条及第82条の規定は、刑事に之を準用す。
第44条から第46条は、第43条と同様に朝鮮刑事令施行前後の整理に関するもので、仮出獄のみなし規定や施行前の罪に関する判決の手続き規定、上告の手続き規定となっています。

んで、最後がまた朝鮮民事令の準用規定。
第79条は、「本令施行前法令に依り為したる裁判、命令、処分、手続其の他の行為は、本令に依り為したるものと看做す。」という、やはり朝鮮刑事令施行前後の整理に関するみなし規定。
第82条が、「訴訟手続に関する規定中、親族と称するは当分の内朝鮮人に付ては4親等内の者を謂ふ。」という、親族に関するみなし規定ということになります。

さて、今週は朝鮮刑事令について長々とお送りしてきましたが、他法令の参照が多すぎて、書いてる私自身が頭に全く入ってこなかったのは内緒。(笑)
ま、ググったり、左のテーマから見れるから良っか。


ってところで、今日はここまで。


笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(1)~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(2)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(1)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(2)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(1)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(1)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(3)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(4)~