嗚呼。
先月中頃に思い立って以来、ようやくここまで辿り着きました。(笑)
ってことで、朝鮮笞刑令です。

では早速、アジア歴史資料センターの『公文類聚・第三十六編・明治四十五年~大正元年・第十六巻・衛生・人類・獣畜、願訴、司法・裁判所~刑事/朝鮮笞刑令ヲ定ム(レファレンスコード:A01200089300)』と、国会図書館の近代デジタルアーカイブから、朝鮮総督府の出した『明治四十五年行政整理顛末書』を見ながら、1912年(明治45年・大正元年)『制令第13号 朝鮮笞刑令』。

制令第13号
朝鮮笞刑令

第1条
3月以下の懲役又は拘留に処すべき者は、其の情状に依り笞刑に処することを得。

第2条
100円以下の罰金又は科料に処すべき者、左の各号の1に該るときは、其の情状に依り笞刑に処することを得。

1 朝鮮内に一定の住居を有せざるとき
2 無資産なりと認めたるとき
第3条
100円以下の罰金又は科料の言渡を受けたる者、其の言渡確定後5日内に之を完納せざるときは、検事又は即決官署の長は其の情状に依り笞刑に換ふることを得。
但し、笞刑執行中未だ執行せざる笞数に相当する罰金又は科料を納めたるときは、笞刑を免ず。

第4条
本令に依り笞刑に処し、又は罰金若は科料を笞刑に換ふる場合に於ては、1日又は1円を笞1に折算す。
其の1円に満たざるものは、之を笞1に計算す。
但し笞は5を下ることを得ず。

第5条
笞刑は、16歳以上60歳以下の男子に非ざれば、之を科することを得ず。

第6条
笞刑は、笞を以て臀を打ち、之を執行す。

第7条
笞刑は、笞30以下に在りては之を1回に執行し、30迄を増す毎に1回を加ふ。
笞刑の執行は1日1回を超ゆることを得ず。

第8条
笞刑の言渡を受けたる被告人、朝鮮内に一定の住居を有せず又は逃走の虞あるときは、検事又は即決官署の長は之を監獄又は即決官署に留置することを得。

第9条
笞刑の言渡確定したる者は、其の執行を終る迄之を監獄又は即決官署に留置す。
第3条の規定に依り換刑の処分を受けたる者亦同じ。

第10条
検事又は即決官署の長は、受刑者の心神又は身体の障礙に因り笞刑を執行するに適当ならずと認むるときは、3月以内執行を猶予することを得。
猶予3月を超え、猶笞刑を執行するに適当ならずと認むるときは、其の執行を免ず。
前項の規定に依り執行を猶予せられたる者に付ては、前条の規定に依らざることを得。

第11条
笞刑は、監獄又は即決官署に於て秘密に之を執行す。

第12条
笞刑の時効は、各本刑に付定めたる例に依る。

第13条
本令は朝鮮人に限り之を適用す。

附則
本令は、明治45年4月1日より之を施行す。
まず第1条は、3ヶ月以下の懲役または拘留に処すべき者は、その情状によって笞刑に処する事が出来る。
第4条で出てきますが、1日は笞1回に換算ですので、大抵の場合は90回以下の笞刑になると思われます。

第2条では、100円以下の罰金又は科料に処すべき者であり、さらに住所不定と無資産の場合には、その情状によって笞刑にする事ができる。
つまり、住所不定でも無資産でも無い「100円以下の罰金又は過料に処すべき者」は、そのまま罰金や科料が言い渡される事になります。
これも、第1条と同じく第4条によって1円1回に換算されますので、100回以下の笞刑になりますね。

次の第3条は、その「100円以下の罰金又は過料」の言い渡しを受けたけど、確定後5日以内に全部収めることが出来ない場合、検事や即決官署の長は、情状によって笞刑に換える事ができる。
ただし、その笞刑執行中に、まだ執行してない笞数に相当する額を納めれば、残りの分の笞刑免除、と。

つまり、第1条と第2条では、言い渡しは「笞刑」。
第3条では、言い渡しは「罰金や科料」で、その後笞刑に代わる形になります。

第4条は先ほどから述べている刑の換算ですね。
1日・1円が笞1回で、1円未満の場合も笞1回に計算。
で、笞は5以下にできないってことですので、拘留5日とか罰金3円とかの場合には、笞刑にできないって事かな?

第5条は笞刑の年齢制限で、16歳以上60歳以下の男子限定。
第6条は、笞打つ場所についての規定で、ケツ、と。

第7条は笞刑の回数制限で、1日につき1回、笞30を上限に執行。
最高の笞100回でも、最短で4日で終わる計算ですね。

第8条は、笞刑の言渡を受けた被告人が、住所不定だったり逃走する恐れがあるときは、監獄や即決官署に留置できる。
即決例による場合、9月3日のエントリーで見たとおり、第3条で正式裁判が請求でき、第5条で直接言い渡ししたら3日以内、言渡書の送達の場合は5日以内にその手続きを執らない時に確定しますので、それまでの期間の留置に関して。
朝鮮刑事令による場合には、刑事訴訟法に基づくわけですので、控訴の場合で言い渡しから5日以内(第252条)ということですので、それが過ぎるまでの留置に関して、という事になります。

第9条は、今度は確定した場合。
笞刑の言渡が確定したら、その執行終了まで監獄または即決官署で留置。
第3条によって、罰金や科料から笞刑に換わった場合も同様、と。

第10条は執行猶予規定。
受刑者の心身に不具合があり、笞刑を執行するのに適当な状態ではないと判断した場合、3ヶ月以内で執行を猶予できる。
3ヶ月を超えてもまだ執行するのに適当な状態ではないと判断すれば、笞刑の執行免除。
また、そのようにして執行猶予を受けた者は、第9条の刑終了まで留置の規定は適用しない事ができる、と。

第11条は、笞刑は公開刑では無く非公開刑として執行する。

第12条は時効についてですが、元々懲役・拘留・罰金・科料が主であり、単に情状によるか、お金を払えない時に笞刑になるだけですから、その主刑で定めた例による、と。

で、第13条はたまに話に挙がる、朝鮮笞刑令は朝鮮人にだけ適用。
流れとしては、今回「笞刑に関する整理」として取り上げてきたように、ずっと刑法大全を基本に朝鮮人専用で続いてきたわけです。
それが、同日施行の朝鮮刑事令で、刑法等の日本の法律を基準とするに当たって、犯罪即決例等の日本法規、民籍令等の旧大韓帝国法規に残置していた笞刑も含めて、笞刑について統合し、基準を明文化したというだけの話。

前提を理解していないと、突然笞刑が朝鮮人にだけ適用されたように見えますが、そういう話でも無く。
ま、主刑が主刑ですので、笞刑になりうる範囲は広がってますけどね。
( ´H`)y-~~

最後に、提出理由を見てみましょう。

朝鮮には、古来微罪に科するに笞刑を以てするの慣例あるを以て、刑事令に対する例外として、朝鮮人に限り、3月以下の自由刑及100円以下の財産刑に処すべき場合に於て、之に換ふるに笞刑を以て得せしめむとするに由る。
創氏改名で、朝鮮の慣習を壊して日本的イエ制度を押しつけたと批難する水野直樹せんせいなんかは、きっと朝鮮の慣習を壊して1920年に笞刑を廃止した事にも否定的な筈。(笑)
( ´H`)y-~~


今日はここまで。



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(1)~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(2)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(1)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(2)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(1)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(1)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(3)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(4)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(5)~
笞刑に関する整理(十三) ~犯罪即決例改正~