今日も笞刑に直接関係する話では無いんですが、朝鮮笞刑令による対象拡大には繋がる話。
それが今回の警察犯処罰規則です。
日本内地では警察犯処罰令が出されてたわけですが、その朝鮮版ですね。

しかし、これは「朝鮮総督府令」でして、アジ歴にも制定当時の史料は無く。
ってことで、代わりに『大正13年版 朝鮮法令輯覧(レファレンスコード:A06032017900)』の324画像目を見ていく事にします。
それでは、1912年(明治45年・大正元年)『総令第40号 警察犯処罰規則』より。

警察犯処罰規則
明治45年3月
総令第40号

第1条
左の各号の1に該当する者は、拘留又は科料に処す。

1 故なく人の居住又は看守せざる邸宅、建造物及船舶内に潜伏したる者
2 一定の住居又は生業なくして諸方に徘徊する者
3 密淫売を為し又は其の媒合若は容止を為したる者
4 故なく面会を強請し又は強談、威迫の行為を為したる者
5 合力、寄附を強請し、強て物品の購買を求め又は技芸を演じ若は労力を供給して報酬を求むる者
6 収利の目的を以て強て物品、入場券等を配付したる者
7 乞丐を為し又は為さしめたる者
8 団体加入を強請したる者
9 濫に市場其の他之に類する場所に営業者の出品若は入場を強請し、又は物品売買の委託を強請したる者

10 入札の妨害を為し、共同入札を強請し、落札人に対し其の事業、利益の分配若は金品を強請し又は落札人より故なく之を受けたる者
11 入札者通謀して競争入札の趣旨に反する行為を為したる者
12 財物を売買し又は労力を受給するに当り、不当の代償を請求し若は相当の代償を支払はずして不正の利を図りたる者
13 他人の事業若は私事に関し、新聞紙、雑誌其の他の出版物に掲載せざることを約し、又は新聞紙、雑誌其の他の出版物に虚偽の事実を掲載し、若は掲載することを約して金品を受け、其の他不正の利を図りたる者

14 申込なき新聞紙、雑誌其の他の出版物を配付して、其の代料を請求し、又は強て其の購読の申込を求めたる者
15 申込なき広告を為して其の代料を請求し、又は強て広告の申込を求めたる者
16 誇大又は虚偽の広告を為し、不正の利を図りたる者
17 他人の業務又は其の他の行為に対し、悪戯又は妨害を為したる者
18 故なく他人の金談取引等に関渉し、又は濫に訴訟、争議を勧誘教唆し、其の他紛擾を惹起せしむべき行為を為したる者
19 濫に多衆聚合して官公署に請願又は陳情を為したる者
20 不穏の演説を為し、又は不穏の文書、図画、詩歌の掲示、頒布、朗読若は放吟を為したる者

21 人を誑惑せしむべき流言浮説又は虚報を為したる者
22 妄に吉凶禍福を説き、又は祈祷、符呪等を為し、若は守札類を授与して人を惑はしむべき行為を為したる者
23 病者に対し禁厭、祈祷、符呪又は精神療等を施し又は神符、神水等を与へ医療を妨げたる者
24 濫に催眠術を施したる者
25 故らに虚偽の通訳を為したる者
26 自己又は他人の業務に関し、官許ありと詐称したる者

27 官公職、位記、勲爵、学位、称号を詐り、又は法令の定むる服飾、徽章を僭用し、若は之に類似のものを使用したる者
28 官公署に対し不実の申述を為し、若は其の義務ある者にして故なく申述を肯ぜす、又は情を知りて不実の代書を為したる者
29 本籍、住所、氏名、年齢、身分、職業等を詐称して投宿又は乗船したる者
30 故なく官公署の召喚に応ぜざる者
31 官公署の榜示し、若は官公署の指揮に依り榜示せる禁条を犯し、又は其の設置に係る榜標を汚涜若は撤去したる者
32 警察官署に於て特に指示若は命令したる事項に違反したる者
33 不正の目的を以て人を隠匿したる者

34 徒弟、職工、婢僕、其の他労役者若は被雇者等に対し、故なく其の自由を妨げ又は苛酷の取扱を為したる者
35 濫に他人の身辺に立塞り、又は追随したる者
36 祭事、葬儀、祝儀又は其の行列に対し、悪戯又は妨害を為したる者
37 夜1時後、日出前、濫に歌舞音曲其の他喧噪の行為を為し他人の安眠を妨害したる者
38 劇場、寄席、其の他公衆会同の場所に於て、会衆の妨害を為したる者
39 公衆の自由に交通し得る場所に於て喧噪し、横臥し又は泥酔して徘徊したる者
40 公衆の自由に交通し得る場所に於て、濫に車馬、舟筏、其の他の物件を置き又は交通の妨害と為るべき行為を為したる者
41 公衆の自由に交通し得る場所に於て危険の虞あるとき、点灯其の他予防の装置を為すことを怠りたる者
42 官署の督促を受けて、崩壊の虞ある建造物の修繕又は顛倒の虞ある物件の積換等を怠りたる者
43 雑沓の場所に於て制止を肯ぜず、混雑を増すの行為を為したる者
44 出入を禁止したる場所に濫に出入したる者
45 水火災其の他の事変に際し、制止を肯ぜずして其の現場に立入り、若は其の場所より退去せず、又は官吏より援助の求を受けたるに拘らず故らに之に応ぜざる者
46 街路に於て夜間灯火なくして諸車又は牛馬を使用したる者
47 許可を得ずして路傍又は河岸に露店等を開きたる者
48 制止を肯ぜずして路傍に飲食物其の他の商品を陳列したる者
49 電線の近傍に於て紙鳶を揚げ、其の他電線の障害となるべき行為を為し、又は為さしめたる者
50 石戦其の他危険の遊戯を為し、若は為さしめ、又は街路に於て空気銃吹矢の類を弄び、又は弄ばしめたる者

51 濫に犬其の他の獣類を嗾し又は驚逸せしめたる者
52 猛獣、狂犬又は人を咬傷する癖ある獣畜等の繋鎖を怠りたる者
53 闘犬又は闘雞せしめたる者
54 公衆の目に触るべき場所に於て、牛馬其の他の動物を虐待したる者
55 危険の虞ある精神病者の監護を怠り、屋外に徘徊せしめたる者
56 公衆の目に触るべき場所に於て、袒裼、裸裎し、又は臀部、股部を露はし其の他醜態を為したる者
57 街路に於て屎尿を為し、又は為さしめたる者
58 他人の身体、物件又は之に害を及ぼすべき場所に対し、物件を抛澆し又は放射したる者
59 濫に禽獣の死屍又は汚穢物を棄擲し、又は之が取除を怠りたる者
60 人の飲用に供する浄水を汚穢し、又は其の使用を妨げ、若は其の水路に障碍を為したる者
61 河川、溝渠又は下水路の疏通を妨ぐべき行為を為したる者
62 溝渠、下水路を毀損し、又は官署の督促を受けて其の修繕若は浚渫を怠りたる者
63 官署の督促を受けて道路の掃除若は撒水を為さず、又は制止を肯ぜず、結氷期に於て道路に撒水したる者
64 官署の督促を受けて煙突の改造、修繕又は掃除を怠りたる者

65 濫に他人の標灯又は社寺、道路、公園其の他の公衆用の常灯を消したる者
66 神祠、仏堂、礼拝所、墓所、碑表、形像其の他之に類する物を汚穢したる者
67 濫に他人の家屋其の他工作物を汚涜し、若は之に貼紙、張札等を為し、又は他人の標札、招碑、売貸家札其の他榜標の類を汚涜し、若は撤去したる者
68 濫に他人の田野、囲囿に於て菜果を採摘し、又は花卉等を採折したる者
69 他人の所有又は占有したる土地を冒して工作物を設け、軒楹を出し、牧畜を為し又は耕作其の他現状に変更を来すべき行為ありたる者
70 電柱、橋梁、掲示場其の他の建造物に濫に牛馬を繋ぎたる者

71 橋梁又は堤防を損壊するの虞ある場所に舟筏を繋ぎたる者
72 濫に他人の繋ぎたる牛馬其の他の獣類又は舟筏を解放したる者
73 濫に他人の田圃を通行し、又は之に牛馬諸車を侵入せしめたる者
74 自己占有の場所内に老幼、不具又は疾病の為救助を要する者、若は人の死屍、死胎あることを知りて、速に警察官吏又は其の職務を行ふ者に申告せざる者
前項の死屍、死胎に対し、警察官吏又は其の職務を行ふ者の指揮なきに其の現場を変更したる者
75 人の死屍若は死胎を隠匿し、又は他物に紛はしく擬装したる者
76 許可を得ずして人の死屍若は死胎を解剖し、又は之が保存を為したる者
77 一定の飲食物に他物を混じて不正の利を図りたる者
78 病斃したる禽獣の肉類、又は不熟の果物、腐敗の飲食物其の他健康を害すべき物を飲食物として営利の用に供したる者
79 埋棄したる牛、馬、羊、豚、犬等の死屍を発掘したる者
80 炮煮、洗滌、剥皮等を要せず、其の侭食用に供すべき物に覆蓋を設けず、店頭に陳列し又は行商したる者
81 自己又は他人の身体に刺文したる者
82 家屋其の他の建造物若は引火し易き物の近傍又は山野に於て濫に火を焚きたる者
83 石灰其の他自然発火の虞ある物の取扱を忽にしたる者
84 濫に鉄砲の発射を為し、又は火薬其の他劇発すべき物を玩ひたる者
85 許可を得ずして煙火を製造し、又は販売したる者
86 許可を得ずして劇場其の他の興行場を開きたる者
87 渡船、橋梁其の他の場所に於て、定額以上の通行料を請求し、若は定額の通行料を支払はずして通行し、又は故なく通行を妨げ、若は通船の求に応ぜざる者


第2条
本令に規定したる違反行為を教唆し又は幇助したる者は、前条に照し之を罰す。
但し、情状に依り其の刑を免除することを得。

附則
本令は明治45年4月1日より之を施行す。
長いし、取りあえず読んだままなので解説は無しで。(笑)

ちなみに、太字の部分は日本の1908年(明治41年)『内務省令第16号 警察犯処罰令』に、類似項目が無い部分。

逆に、1908年(明治41年)『内務省令第16号 警察犯処罰令』にはあって、1912年(明治45年・大正元年)『総令第40号 警察犯処罰規則』には無い項目は一つだけ。
開業の医師、産婆、故なく病者又は妊婦、産婦の招きに応ぜざる者」。
まぁ、この頃はまだ、医師免許や産婆免許といった、資格を持っている人自体が少なかったってのもあるんでしょうけど。

で、1912年(明治45年・大正元年)『総令第40号 警察犯処罰規則』では、大雑把に言って不正利得や虚偽申告、公共的概念に関する部分なんかが、大目に増えている事が分かります。

中でも特徴的なのは、「23 病者に対し禁厭、祈祷、符呪又は精神療等を施し又は神符、神水等を与へ医療を妨げたる者」。
まぁ、閔妃の祈祷の話や一昨年の4月30日のエントリーの卜筮巫女が頻繁に出入りする話等、「まじない」に関する話は結構目にするわけで、「そういう世界だから良いんじゃね?」で済めば良いんでしょうけど、村山智順の調査なんかを見ても、伝染病でこれやられたら、たまったもんじゃ無いしねぇ。(笑)

後は、「53 闘犬又は闘雞せしめたる者」かなぁ。
負けた方の犬、補身湯(ポシンタン)にされて喰われたりしないよなぁ、とか思いつつ。(笑)


今日はここまで。



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笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(1)~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(2)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(1)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(2)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(1)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(1)~
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笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(3)~
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笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(5)~
笞刑に関する整理(十三) ~犯罪即決例改正~
笞刑に関する整理(十四) ~朝鮮笞刑令~
笞刑に関する整理(十五) ~朝鮮笞刑令施行規則~
笞刑に関する整理(十六) ~笞刑執行心得~
笞刑に関する整理(十七) ~朝鮮監獄令と司法警察事務並令状執行ニ関スル件~