さて、前回は朝鮮笞刑令が廃止される事になる1920年(大正9年)までの裁判所令の改正を見ましたが、今回は同じく朝鮮笞刑令が廃止される事になる1920年(大正9年)までの、朝鮮刑事令に関する改正について。
ってことで、前回ほどではありませんが、今回もそれほど重要な話では無いので、興味無い人は飛ばしてオッケーです。(笑)

まず最初の改正は、1917年(大正6年)の制令第3号になるんですが、その分だけが何故かアジ歴では公開されていませんので、nominally氏からもらった官報から見ていきたいと思います。
それでは、1917年(大正6年)『制令第3号 朝鮮刑事令中改正』より。

朝鮮刑事令改正(クリックで拡大)

制令第3号
朝鮮刑事令中、左の通改正す。

第21条中、「第12条」を「第12条、第17条」に改む。

第21条の2
第12条第2項、第17条又は刑事訴訟法第147条の規定に依り司法警察官の為す処分には、立会人を要せず。

第35条第2項に左の但書を加ふ。
但し、上告裁判所の検事の附帯上告は、其の趣意書を上告裁判所に差出すに依りて之を為す。

第41条第2項及び第3項を削る。

附則
本令は、大正6年12月10日より之を施行す。
本令施行前に朝鮮刑事令第41条第2項の罪を犯し、未だ確定判決を経ざる者に付ては、朝鮮刑事令に依り之を処断す。
つうか、最初から意味わかんね・・・。_| ̄|○

朝鮮刑事令の第21条は、9月12日のエントリーで取り扱った「刑事訴訟法第92条の規定は、第12条及前2条の場合に之を準用す。」。
「第12条」を「第12条、第17条」に改むですから、「刑事訴訟法第92条の規定は、第12条、第17条及前2条の場合に之を準用す」となります。

その刑事訴訟法第92条は何かというと、「予審判事臨検、捜索、物件差押又は被告人、証人の訊問を為すには、裁判所書記の立会を必要とす。書記は調書を作り予審判事と共に署名捺印す可し。」「裁判所外に於て、急遽の際書記の立会を得ること能はざるときは、立会人2名あるを要す。但、監獄署に就て被告人を訊問するときは、其監獄署の官吏1名をして立会はしむ可し。」「前項の場合に於ては、予審判事自ら調書を作り之を読聞かせ、立会人と共に署名捺印す可し。書記又は立会人なくして為したる処分は、其効なかる可し。」の3項。

ところが、第21条の2として、「第12条第2項、第17条又は刑事訴訟法第147条の規定に依り司法警察官の為す処分には、立会人を要せず。」が新設されてるわけで。
刑事訴訟法第92条って、まさに立ち会い人の規定ちゃうのん?と。

この部分について、大正6年の『朝鮮総督府施政年報』には、「既往の実験に徴して、同令中訴訟手続に関する規定を改正し、司法警察官に於て現行犯の仮予審処分又は非現行犯の急速処分等を為す場合には立会人を要せず」とされています。
裁判所書記をそれに立ち会わせたり、立会出来ない場合には2人の立会人が必要だったりというのが、運用上困難だったって事ですかね。

でも、やっぱり何で第21条に第17条をわざわざ挿入して、第21条の2で除外するという形になったのか不明。
従来のままで良かったじゃん、と。
単に法令上の整理のためなんかな?
ま、悩んで答えが出るほど法学に詳しいワケでもないんで、疑問だけ提示しとこうっと。

続いての第35条に但し書きを加える方は、簡単な話。
元々第35条では、附帯上告は趣意書を原裁判所に出すと規定されてたわけですが、上告裁判所の検事がこの規定に従うと、原裁判所に趣意書出した後すぐ自分の方に還ってくるわけで、この無意味なワンクッションを省いた、と。

で、次の「第41条第2項及び第3項を削る」が、今回の改正のメインですね。
第41条については、9月14日のエントリーで取り上げています。
第2項では、殺人や強盗傷害等のそれまで絞首刑に該当していたような凶悪犯罪に刑法大全を適用し、第3項では当該罪に類似の物は引用するけど、死刑に該当する事例では引用できないという規定でした。

つまり、刑法大全の残置を規定していた条文を削除した事になります。

これに関して、先ほどの大正6年『朝鮮総督府施政年報』から少し引用してみます。

明治45年朝鮮刑事令の実施と共に、旧韓国刑法大全を廃止し、原則として一般に刑法其の他刑事に関する内地法を引用施行したるも、朝鮮人間に行はるる殺人強盗罪は、犯情極めて兇悪なるもの多きを以て、之に対しては従前の如く特に其の制裁を峻厳にするの必要あるを認め、此の2種の犯罪に関する刑法大全の規定に限り、当分の間除外例として其の效力を存続せしめたり。
然るに、近時時勢の進運に伴ひ、犯情兇悪なるもの著しく減少したるに依り、内地刑法を以て之に臨むも治安保持上何等障害を及ぼさざるものと認め、本年12月制令を以て朝鮮刑事令を改正し、此の除外例を削除して其の刑罰を緩和すると共に、従来内鮮人間に残存せし唯一なる実体法上の区別を撤去し、茲に法規統一の目的を達成せり。
1920年(大正9年)の朝鮮笞刑令の廃止が、3.1運動や外人の圧力で行われたとすれば、刑法大全の残置条項は、何の圧力で廃止されたんでしょうねぇ?(笑)

切っ掛けとなったのは明らかですが、ずっと残すつもりも無かっただろう、と。


ってことで、ちょっと早めですが今日はここまで。



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(1)~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(2)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(1)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(2)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(1)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(1)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(3)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(4)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(5)~
笞刑に関する整理(十三) ~犯罪即決例改正~
笞刑に関する整理(十四) ~朝鮮笞刑令~
笞刑に関する整理(十五) ~朝鮮笞刑令施行規則~
笞刑に関する整理(十六) ~笞刑執行心得~
笞刑に関する整理(十七) ~朝鮮監獄令と司法警察事務並令状執行ニ関スル件~
笞刑に関する整理(十八) ~警察犯処罰規則~
笞刑に関する整理(十九) ~裁判所令改正(3)~