できれば先月中に終わらせたかった「笞刑に関する整理」。
今日は、いよいよ笞刑の廃止の話。

それでは早速、アジア歴史資料センターの『公文類聚・第四十四編・大正九年・第二十八巻・司法・裁判所・執達吏・公証人・民事(民法・戸籍)・刑事/朝鮮笞刑令中廃止制令案(レファレンスコード:A01200192700)』から。
でも、他の史料とか見ても制令番号が分からない・・・。
1920年(大正9年)『朝鮮笞刑令中廃止制令』より。

朝鮮笞刑令は之を廃止す。

附則
本令は、大正9年4月1日より之を施行す。
本令施行前、笞刑に処せられ、又は罰金若は科料を笞刑に換へられ、其の執行終わらざる者に付ては、仍従前の例に依る。


理由
笞刑は、古来朝鮮に於て広く施用せられ、民度に恰適する刑罰なるを以て、明治45年4月、内、鮮、外人に対する刑事法規を整理統一するに該り、暫く旧制を襲踏し、軽微なる犯罪の制裁として之を存置したり。
然れども、本刑の如く肉体に直接の苦痛を与ふるものは、現代文明思想に基く刑罰の性質と背馳する点あるのみならず、近時朝鮮人は著しく向上自覚し、其の民度は復昔日の観にあらざるが故に、笞刑を廃止し、基本刑たる懲役又は罰金を以て之に蒞むも、刑政上毫も支障なしと認めたるに由る。
ということで、笞刑は昔から朝鮮で広く行われ、民度に合う刑罰なので、1912年(明治45年)に刑事法規を整理統一する際に、旧制を踏襲して軽い犯罪の制裁として「存置」した。
うん、「存置」。
何度も言ってますが、「新設」では無いわけで。

で、そうだったけど、笞刑のように肉体に直接苦痛を与える刑罰は、近代的な刑罰の性質と反するだけで無く、最近は朝鮮人も民度が上がってきたので、笞刑を廃止して、基本刑である懲役や罰金でのぞんでも問題無いと認めた事による、と。

んで、これだけで終わるのもあれなんで、一応1911年(大正元年)から1920(大正9年)の笞刑の件数を一覧表で。

大正
元年
大正
2年
大正
3年
大正
4年
大正
5年
大正
6年
大正
7年
大正
8年
大正
9年
合計
犯罪即決事件 刑法犯 16,733 17,111 18,394 20,598 29,952 33,745 29,208 20,533 7,366 193,640
特別法犯 1,638 2,848 4,625 6,199 9,274 11,123 9,475 14,300 796 60,278
合計 18,371 19,959 23,019 26,797 39,226 44,868 38,683 34,833 8,162 253,918
財産刑執行人員 執行人員 1,760 1,580 1,898 2,834 3,860 4,198 3,862 7,811 27,803
完納 1,147 940 1,035 1,663 2,246 2,998 3,015 5,586 18,630
換刑 145 370 537 683 920 1,309 586 424 78 5,052
体刑執行人員 4,314 6,217 7,170 8,997 13,320 17,770 18,104 14,718 2,899 93,509
新受刑者の罪名
刑名及刑期
刑法犯 2,143 2,489 2,998 3,862 6,322 7,991 7,907 5,753 1,404 40,869
特別法犯 76 193 483 490 460 703 739 1,557 124 4,825
合計 2,219 2,682 3,481 4,352 6,782 8,694 8,646 7,310 1,528 45,694

これらは全て、「朝鮮総督府統計年報」から拾った数字。
アジア歴史資料センターにもあるんですが、ちょこちょこ欠けてる年がありますので、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで「朝鮮総督府統計年報」を検索した方が良いと思われます。

なお、1912年(明治45年・大正元年)の数字については、後の統計数字と何故か誤差があるんですが、笞刑の数が多い方、つまり1912年時の統計上での数字を採用してみてます。

「犯罪即決事件」については、第17の「警察」の部分からの笞刑数。
「財産刑執行人員」、「体刑執行人員」については、第19の「裁判」における換刑と笞刑数。
「新受刑者の罪名刑名及刑期」については、第20の「監獄」における笞刑数となっています。
(大正9年以降は第5編と第6編に分かれます)

まず、犯罪即決事件については、「犯罪即決事件罪名別処断人員」から朝鮮人に対する笞刑数。
このうち、刑法犯に該当するのは、ほぼ100%に近い割合で「賭博」。
特別法犯については結構分散してますが、「森林に関する法令」が結構多い。
まぁ、全体を通しても70%前後が「賭博」。
犯罪即決例の第1条第2号の「3月以下の懲役、又は100円以下の罰金、若は科料の刑に処すべき賭博の罪」ですね。

財産刑執行人員については、「財産刑執行事件国籍別」から、朝鮮人に対する笞刑数。
但し、1917年(大正6年)までは、労役場留置も含んだ数字ですし、換刑の全てが笞刑でも無い雰囲気。
ま、参考程度にしか成りませんが、朝鮮笞刑令の第3条の換刑は、それほど大した数では無かった事が分かります。

体刑執行人員については、「体刑執行事件国籍別」から朝鮮人に対する笞刑数。
ただ、次の「新受刑者の罪名刑名及刑期」の笞刑数と、結構な開きがあるんですよね。
裁判の項と監獄の項の数字ですので、「体刑執行事件国籍別」が判決で出た数で、「新受刑者の罪名刑名及刑期」との差分は、9月21日のエントリーで若干取り上げた、監獄法第1条第3項の「警察官署に附属する留置場は、之を監獄に代用することを得」に基づいて留置場で執行されたか、執行猶予か、他の何らかの統計上の理由によるもの。
恐らく、留置場等の監獄外での執行が殆どだという気はしますが。

新受刑者の罪名刑名及刑期については、そのままの部分から笞刑の数。
大正6年の刑法犯について、表中は「7,990人」となっていますが、縦計していくと「7,991人」の誤りですので、そちらを採用しました。

全体として、大正6年くらいをピークに、笞刑は減少傾向にあるようで。


取りあえず全体的な統計を見た所で、今日はここまで。



笞刑に関する整理(一) ~序~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(1)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(2)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(3)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(4)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(5)~
笞刑に関する整理(二) ~刑法大全(6)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(1)~
笞刑に関する整理(三) ~民籍法(2)~
笞刑に関する整理(四) ~韓国司法及監獄事務委託~
笞刑に関する整理(五) ~統監府裁判所令~
笞刑に関する整理(六) ~韓国人ニ係ル司法ニ関スル件~
笞刑に関する整理(七) ~統監府監獄事務取扱ニ関スル件~
笞刑に関する整理(八) ~犯罪即決令~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(1)~
笞刑に関する整理(九) ~犯罪即決例(2)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(1)~
笞刑に関する整理(十) ~適用事例(2)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(1)~
笞刑に関する整理(十一) ~裁判所令改正(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(1)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(2)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(3)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(4)~
笞刑に関する整理(十二) ~朝鮮刑事令(5)~
笞刑に関する整理(十三) ~犯罪即決例改正~
笞刑に関する整理(十四) ~朝鮮笞刑令~
笞刑に関する整理(十五) ~朝鮮笞刑令施行規則~
笞刑に関する整理(十六) ~笞刑執行心得~
笞刑に関する整理(十七) ~朝鮮監獄令と司法警察事務並令状執行ニ関スル件~
笞刑に関する整理(十八) ~警察犯処罰規則~
笞刑に関する整理(十九) ~裁判所令改正(3)~
笞刑に関する整理(二十) ~刑事令改正(1)~
笞刑に関する整理(二十) ~刑事令改正(2)~
笞刑に関する整理(二十一) ~共通法(1)~
笞刑に関する整理(二十一) ~共通法(2)~